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ヒート先輩に褒めてほしい一心で、思わず強請ってしまった。
「任せてくださいと言われても、第一と違って、第二は外に営業に出ないしな」
「来客時のお茶出しはもちろん、どんなことでもやります!」
「なんでそんなに張り切ってるんだ、おまえ」
頭を撫でていた先輩の手が、僕を落ち着かせようと、肩を軽く叩く。
(だって、ヒート先輩に好きになってほしいから。なんて言えるわけがない!)
「僕としては、第二での仕事を早く把握したいのもありますし、第一との違いを比較してみたくて」
当たり障りのないことを言って、己の想いを隠した。ここは職場で、今は仕事に集中しなければならない。
「大変だな」
「えっ?」
ヒート先輩の口から出たセリフに、首を傾げてみせる。
「大和は花園常務の期待に応えなきゃならない立場なわけだから、新人だろうと、なんでもこなさなきゃいけないだろ」
「父は関係ありません」
「それでも周りはそういう目で、おまえを見るって」
(先輩は僕の立場を、慮ってくれているのかもだけど――)
「島田先輩、ぶっちゃけたことを言ってもいいですか?」
「ああ」
「あの……」
言いながらヒート先輩の耳元に、素早く顔を寄せる。
「さっきのように、ヒート先輩に頭を撫でてほしいんです。すごく嬉しかったので」
「は?」
間の抜けたかわいらしい返事に、思わずほほ笑んでしまったが、押しどきに口説かない男は男じゃない!
「好きな人に触れてほしい僕の気持ち、理解してくれましたか?」
「ぶっ!」
盛大に吹き出すヒート先輩の顔は、とてもおもしろい表情だった。目を白黒させつつ、頬が赤くなってる。
(ああ、すごくかわいい。こんな顔、絶対に普段は見られない先輩だからこそ、かなり貴重だよな)
きっとこんなふうに、誰かに迫られた経験がないんだろう。
「島田先輩、大丈夫ですかぁ?」
「おまっ、いきなり……」
片手で口元を隠して、赤らんだ頬をしっかり見えないようにするところも、本当にかわいいと言える。
「僕はマジメに、自分の気持ちを答えただけです」
「だからって――」
「事前に告知しましまよね、ぶっちゃけたことを言ってもいいですかって。島田先輩、許可したじゃないですか」
「くっ!」
悔しそうな面持ちで、おおきな躰を戦慄かせる姿に、笑いだしたくて堪らなくなる。
「僕は本気なんです。だからしっかりご指導のほど、よろしくお願いしますねぇ」
銀縁メガネのフレームに触れながら告げた、宣戦布告とも受け取れるセリフを聞いたヒート先輩は、僕の視線から逃げるように椅子を反転させ、デスクで頭を抱えたまま、項垂れてしまったのだった。
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