ひとにぎりの....

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ひとにぎりの才能が欲しい。 これ以上、報われない努力なんて続けたくない。 ひとにぎりの名声が欲しい。 脚光を浴びて、誰も彼もに羨まれたい。 ひとにぎりの仲間が欲しい。 この気持ちを、誰かと共に分かち合いたい。 ひとにぎりの自由が欲しい。 何も自分で決められない人生なんて嫌なんだ。 ひとにぎりの優しさが欲しい。 誰ひとりも傷つけない、優しい私になりたい。 ひとにぎりの勇気が欲しい。 もう二度と、誰かを置いて逃げ出さないために。 ひとにぎりの札束が欲しい。 今日のレースは勝てる気がするんだ。 ひとにぎりの小銭が欲しい。 仕事も家も、家族さえも失ったのに。 ひとにぎりの薬が欲しい。 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる ひとにぎりの希望が欲しい。 叶わなくとも、照らしてくれればそれでいい。 ひとにぎりの小麦が欲しい。 もう4日も何も食べてないんだ。 ひとにぎりの覚悟が欲しい。 一生、人殺しとして生きていく覚悟を。 ひとにぎりの..... ひとにぎりの天才になりたかった。 努力なんてしなくとも、常に誰かに讃えられながら生きたかった。 ひとにぎりの金持ちになりたかった。 何不自由なく、何にも困ることなく、好きなように好きなことをして、自由気ままに生きたかった。 ひとにぎりの普通の人間に生まれたかった。 誰にも軽蔑されなくて、誰にも変な目で見られなくて、誰にも迷惑をかけずに、誰かの隣で生きたかった。 ひとにぎりの優しい家に生まれたかった。 お母さんに叩かれることも、お父さんにタバコを口に入れられることもない、あったかい家で生きたかった。 ひとにぎりの恵まれた国に生まれたかった。 水があって、食べ物がたくさんあって、緑があって熱くない、そんな国で生きたかった。 ひとにぎりの人間になりたかった。 何億何兆何京、小さな命のみなもとの中のたった一つになって、陽の光を浴びて、声を出して泣いて。 生まれたかった。 育ちたかった。 笑いたかった。 ただ、生きたかった。 ひとにぎりの.... ひとにぎりの、なれなかったものに。 ひとにぎりの、恵まれたものに。 ひとにぎりの、そんなものになりたかった。 ひとにぎりの、あなたのように。
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