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(3)
それはある夏の日のことだった。今ほど異母姉に憎まれていなかったデイジーは、川へ舟遊びに出かける異母姉と異母妹とすれ違った。そして、つい話しかけてしまったのだ。
『もし、お姉さま』
『お前のようなやつに、姉だなんて呼ばれたくなくってよ』
『大変失礼いたしました。ただ本日、湖にお出掛けになるのはお止めになった方がよろしいかと』
『なあに。夏の暑い日に、離宮で蒸されるしかない落ちこぼれの僻みかしら?』
『いいえ。ただ、今日は午後から天気が崩れ出すらしく……』
『あら、お前が天気を占うというの。お生憎様。わたくしには、良い占い師も素晴らしい学者もついているの。お前にあれこれ指図をされるいわれはないわ』
『ですが!』
『くどいわね! 痛い目に遭いたいの!』
『……申し訳ありません。出過ぎた真似をいたしました』
『ふん。気味の悪い女ね。早くここから出ていってくれないものかしら』
その後デイジーが警告した通り、午後から天気は急速に崩れ、近年稀に見る大嵐となった。そして、舟遊びをしていた異母妹が溺れたのである。一命はとりとめたが、異母妹はすっかり水を怖がるようになってしまった。おかげで精霊の使役までうまくいかなくなる始末。彼女の相棒は水の精霊だったのである。
それを異母姉は、デイジーがしっかり止めなかったせいだと逆恨みしているのであった。
(でも、どうせ信じてくれやしないわ。精霊たちの声が聞こえるなんて)
精霊をパートナーに持つ王女たちでさえ、精霊が何を考えているかを知らない。彼女たちにとって精霊は、気まぐれに手助けをしてくれる、不可思議な存在でしかないのだ。それなのに、いまだ相棒のいないデイジーが彼らとなめらかに会話をすることができるなんて、嘘つき扱いされるに違いなかった。
黙って下を向くデイジーに向かって、異母姉が扇を投げつけてきた。派手な音の割に痛くはないことだけが幸いだ。体を縮こめるデイジーを見て、にんまりと異母姉は笑う。
「そうだわ。お前の無意味なその卵、物理的に割ってやったら精霊が生まれるのではなくって。そうだわ、それがいい。わたくしが叩き割ってあげるわ。早くこちらによこしなさい」
恐ろしげな異母姉の言葉に、さすがのデイジーも顔を引きつらせた。
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