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「黄金の卵には手出し無用。そういう取り決めのはずだ」 「あら、どうしてわざわざ庇うのかしら。いまだに精霊を生み出すことのできない出来損ないよ?」 「その卵を届けたのは、俺だ」 「仕事をまっとうする責任があるということね」  ふたりの間に割って入ったジギスムントの言葉に、デイジーはうつむいたまま唇をかんだ。 (そう、この卵を届けてくれたのはジギスムントだったのよね)  ジギスムントがデイジーの隣にいてくれるのは、ただの責任感。思わずデイジーは胸が苦しくなった。  本来ならば、聖獣たちが届ける黄金の卵。それを届けたのが、美しいとはいえただの平民であったことに国王は不満を漏らしたと聞いている。 『なぜ聖獣ではなく、そなたが遣いに選ばれたのか?』 『聖獣ではなく、俺のほうがふさわしいと精霊王が判断したからだ』 『王に向かってその口のききかた。精霊王は何を考えておられるのだ』 『たかが一国の王が、偉そうに』 『貴様、無礼であるぞ!』 『しばらくこの姫の側にいさせてもらおう。ああ、もてなしなど気にするな。こちらが好きでやることだからな』 『誰が貴様のような人間を歓迎するか。聖獣でもあるまいし。まったく不愉快だ。さっさと下がるがよい』 『やれやれ、まったく愉快な王さまだな。あんまりいらいらすると、早死にするぞ』 『剣のサビになりたくなければ、即刻出て行け!』  物心ついてから聞いた当時の話に、デイジーはめまいを覚えたものだ。それからデイジーはジギスムントの言葉遣いを直そうとしたが、改められることはなかった。 (彼はそもそも王宮内の規範であるとか、常識というものに価値を感じていないのよね。無意味なものというか、完全に理解できないものとして振る舞っているけれど。平民がみんなジギスムントのようなわけではもないし……。なんだか、まるで人間ではないみたい)  王宮内に味方のいないデイジーでも、ジギスムントの不自然さは理解していたのだ。だからこそ、不思議だった。なぜ彼が、ここまでデイジーのことを大切にしてくれるのか。 「そうよ。どうせなら、わたくしのお付きになりなさい。美味しい食べ物も、きれいな服だって用意してあげる。そこの疫病神と一緒に、這いつくばって雑草を集めたり、土にまみれる生活などしなくていいのよ」 「知ったような口をきかないでもらいたい。責任と言うのが誤解を招いたのであれば、言い直そう。俺は、自分の意思でデイジーの隣にいる」 「可哀想に。そうまでして精霊王に義理立てするなんて。命令には従わなければならないのね」 「勝手にほざいておけ。だがな、俺に触れていいのはデイジーだけだ」  異母姉がジギスムントの頬に手を伸ばす。しかし彼は、それをまるで虫でも追い払うように払いのけた。面子を潰された異母姉が、デイジーを睨みつけてくる。 (本当に、ただの責任感ではないの?)
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