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「あら、たまご姫じゃありませんこと。そろそろお城を出る準備が必要ではなくって? 養鶏農家に嫁ぐのだったかしら。あら、でも割れない役立たずの卵ばかり生まれるようになっては、養鶏農家も商売上がったりでしょうね。いやだわ、これだから疫病神は」  ここは王の側室と子どもたちが住む離宮の一角。美しい女の園であり、実態は語るのもはばかられるほどどろどろとした場所だ。出会い頭に異母姉から流れるような嘲りを受け、デイジーは小さくため息をついた。  従者のジギスムントが庇うようにデイジーの前に立とうとするが、彼女は黙って首を振る。見目麗しいこの従者に異母姉はことのほか執着していた。彼がデイジーを守れば、火に油を注ぐことになるに違いないのだ。 (私だって、好きで姫に生まれたわけじゃないのに)  異母姉から隠すように、自身に与えられた「黄金の卵」を強く抱きしめる。相手の機嫌がよければ、嫌味だけで解放されるだろう。そうでなければ、多少の痛みは覚悟せねばならない。 (どうか無事に部屋に戻れますように)  デイジーのささやかな願いは、もちろん叶わなかった。
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