春霞

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 私を忘れないで――そう願う彼女の声は僕のよく知る穏やかなもので……それでいて、こちらの胸が痛むほど悲哀に満ちていた。そんな彼女に対し、僕は―― 「…………分かった」  ……そう、応えるしかなかった。そうとしか、応えられなかった。他に……他にもっと伝えるべきことがあるはずなのに。  それでも、そんな情けない僕の返事に少女は笑ってくれた気がした。そして―― (……ありがと、湖春(こはる)。最期にこうして貴方と話せて、ほんとに良かった。私を見つけてくれて――愛してくれて、ほんとにありがとう。どうか、幸せになってね) 「――っ!! 待って、僕はまだ君に言わなきゃいけないことが――――あ」  必死に叫ぶも言葉は途切れる。卒然、目の前の霞が嘘のように消えていたから。そして視界には、もうすっかり桜の散り終えた小さな樹だけが映っていた。  
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