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「それで、その後が大変だったんだよ。一匹に餌をあげたら、遠くにいた鹿達までたくさん集まってきちゃって。その後、すっごい追いかけられちゃってもうヘトヘトで」
「…………」
そんな僕の他愛もない話に、クスクスと可笑しそうに微笑む少女。こういう反応をしてくれると、つい自分が話上手のような錯覚に陥ってしまいそうになる。でも、実際は彼女が聞き上手なだけなのだ。勘違いしないよう気を付けなきゃね。
そんな彼女と過ごす時間は、だいたいいつもこんな感じである。僕が一人ひたすら話し続け、彼女は終始柔らかな笑顔で耳を傾けてくれている。多少なり申し訳なさはあるけれども……同時に、僕らにとってそれが自然に思えてくるのだ。
そんな、不思議な少女との穏やかで幸福な時間がいつまでも続く――どうしてか、何の根拠もないのに、そんな楽観的な未来を当然のように思っていたんだ。
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