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目まぐるしい受験期を駆け抜け、春を迎えた。新入生ということもありまだ部活は無く、平素の白雪零ならば迷う事なく二度寝を決め込んでいるが、鞄を引っ掴み溜息を一つ吐くと公園へと足を運んだ。
ベンチに腰掛け数分。示し合わせたかのように鰄紬は隣に腰掛けた。
「……あいかわらずしみったれた顔してんな」
すっかり温くなったお汁粉を押し付けながら、鰄は嘆息した。
白雪も苦笑を浮かべコーンポタージュを差し出し、
「……お前もだろ」
「いや、白雪ほど不景気そうな顔はしてない」
鰄の言葉に反論できず、お汁粉を流し込むと、白雪はくすりと笑う。
「まぁ、流石に『そこのお姉さん。モデルとか興味ないですか?』ってスカウトされる奴には敵わんわ……」
「それは……また別だろ」
目を逸らし呻く鰄に白雪は皮肉な笑みを浮かべ、
「まぁ、お前普通にモデルとしてやってけそうだったけどな」
「……そんなことない」
鰄は不満げにコーンポタージュを一気に飲み干すと、ひらりと舞う聴色の花弁を睨みながら不意に呟いた。
「……あれからまだ3年も経ってないのな」
「……そうだな」
※ ※ ※
今でこそニコイチで扱われているが、2年前の春まで鰄紬と白雪零はもう一人の友人を中心に据え一緒に通学し、平凡でありながらどこか幸せな日々を送っていた。
友人の名は小田切桜。鰄と白雪の家がある坂のちょうど真ん中に住む、アクアマリンの如く澄んだ碧眼と肩の辺りで揃えられた亜麻色の髪が特徴の美少女だが、外見とは異なり姉御肌に満ちた言動も多くそのギャップに萌える級友も多かった。
具体的には、
「零、遅刻するぞ!」
中1の6月頃、唐突に白雪の部屋へやってきた桜は、ヘッドロックを極めながらそう言った。
「そ、それより。どうやって入ってきたんだお前」
次第に顔が白くなっていく白雪に、桜はにこりと笑い、
「そりゃあピッキング……て言いたいとこだけれど。普通におばさんから合鍵渡されてるから。ほら」
「……それにしても、だ。もうちっと優しめに起こせなかったのか?」
「別案としてはチョークスリーパーで起こすってのも有りだっておばさんが言ってたけど……流石にちょっとね」
「そ、そうか。じゃあ仕方ないな。うん、仕方ない」
そうこうして白雪は桜に急かされ登校したのだが、「それって起きるんじゃなくて落ちるんだよね」とか「なんで俺の朝食パンの耳とマヨネーズだけなの?」なんて言う隙も与えられなかった。
なにより絞技を推奨したのが母だったのはどう考えても可笑しい。てか酷ぇ。
※ ※ ※
桜の暴走機関車の如き性格には紬も振り回されていた。学年末試験の数学が芳しくなく、テストをどうしたものかと思案しているとき、
「紬。困った時はお姉ちゃんに任せなさい!」
どんと胸を叩き、いつになくやる気に満ちている桜を他所に、そんなことを突然それも一方的に宣言された紬は慌てふためいた。
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