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「は、お、お姉ちゃんって、桜、お前どうしたんだよ?まさか、ずっと俺らのことをそういう目で……」
「いや、別にそうじゃないよ」
「え……と、どゆこと?」
桜は柔らかな笑みを浮かべ紬の手からテストを取り、
「流石に靴底にテストを隠そうとしてるの見たら……ねぇ」
「ああ……なるほど」
「それで、どうする?私としては復習になるし全然構わないんだけれど」
紬は即決した。仮にこのテストの結果がバレても優等生の桜に教わることにすれば、わざわざ怠い塾に通わされる心配もない。それに、白雪も誘えば良い塩梅だろう。
「そ、それなら頼む」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………い、いや、どうした?やっぱりなんか支障があったか?」
沈黙に耐えきれなくなった紬に桜は能面の様な表情で、
「じゃあ、『お願い、お姉ちゃん♪』って言ってくれ。できればかわいい感じで」
「は?」
「実際私の方が先に生まれているわけだし性別的にもお姉ちゃんであってるだろ」
「……そ、そうか。お、お願いお姉ちゃん。……これでいいのか?」
実際、思春期を真っ盛りというのもあり物凄く恥ずかしかった。だが、桜との勉強会は、想像以上に分かりやすく楽しかった。
強制されていたお姉ちゃんという呼び方も気付けば自然と出来ていて、途中から参加した白雪も最初こそ赤面していたものの、次回からは平然と姉ちゃん呼びをし積極的に質問をしていた。
……姉ちゃんがいたらこんな感じなのかもな。中間テストを迎える頃にはそう考えるくらいこの関係に馴染んでいた紬だが、テストが返却されると、
「お姉ちゃんは鼻が高いぞ……てわけで、お姉ちゃんは廃業だ」
「いや、今回たまたまいい点取れただけかもしれないしこのままでもいいんじゃないか?お姉ちゃん」
「そうだよ、これまで楽しかったからきっとこれからも楽しいに違いない。だからさ……その」
「まぁ、楽しかったのは否定しないが、駄目だ。たまには私も妹になりたい日もあるだろうし。それに、二人の成績もだいぶ上がったし十分だ」
こうして三人は元の友人関係に戻ったのだが、暫くお姉ちゃん呼びが治らなかったのはいうまでもない。
※ ※ ※
季節は廻り春を迎えた。
どこか倒錯的な小田切桜にも風情を楽しむことはできるようで、
「そうだ、来週花見に行かないか?」
「別にいいけど……花見って何するんだ?」
「よく分からないけども、弁当持ち寄ってワイワイするんじゃないのか」
「な、なるほど」
「じゃあ、誰の弁当が一番美味いか勝負しないか?」
「いや、俺全然料理できないから冷食詰め込むけどそれはアリなのか?」
「まぁ、いいんじゃない。いや〜楽しみだ期待してるぞ二人共」
そう朗らかに笑う彼女の顔が二人の見る最後のものとなった。
……桜が事故に遭ったのは、花見の前日のことだった。
※ ※ ※
桜が居なくなってから、二人は遅刻をし始め、授業中の居眠りも頻繁にするようになった。残念ニコイチの始まりである。
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