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第10話 巡世録
「これでよし、と!」
「あだっ」
カンフィに背中を叩かれ、軽く叩いたとは思えない力に前のめりになる。
イトの話から三日が経った。あれから俺達は寝食を共にし、お互いを知る時間として過ごした。
俺とエイレネは今日、一つ目の世界に向かう。イトから世界についての説明も受け、衝撃を吸収してくれる特殊な素材でできた、カンフィのタイトスーツに似た服を内側に着用して準備は完了だ。
バルコニーにはプロトタイプ・コスモスのメンバー全員が見送りの為に集まってくれている。
「少しは男らしい顔になったな!」
プロトタイプ・コスモスと共に世界を平和にすると決心したからなのか、カイニスは俺の顔を見て笑っている。
「八十、エイレネ。もう一度簡潔に伝えるよ」
イトに呼ばれ、俺とエイレネはイトの前に立つ。
「一つ目の世界は対比神格体抗争編——対照的な言葉が存在することで神格体達が二つの勢力となり、抗争を続ける世界。そこまではいいね」
「はい、大丈夫です!」
エイレネが元気よく返事をして、俺は小さく頷く。
「目的は変わらない。戦争を終わらせて、エイレネの力で平和にすること。その為に守らなければならないのは三つだ」
イトは間を空けて、
「一つ、八十とエイレネはいかなる時も離れないこと。二つ、"昼"の神格体と"分断"の神格体に接触すること。三つ、片方の勢力に加担しないこと。理由は昨日説明した通りだけど、覚えているね」
理由として聞かされたのは雑なものだったが、しっかりと覚えている。
対比神格体抗争の両勢力は平和を望んでいる。だからエイレネに危害を加えることはないが、俺は抗争に巻き込まれる可能性がある。巻き込まれない為に、エイレネの近くにいることが重要という俺に対しての約束事。
そして"昼"の神格体と"分断"の神格体を探せ、というのは単純にその二人が鍵になる、ということらしい。ただ物語が変わっている可能性があるから、絶対ではない。
最後に片方の勢力に加担してはいけない、というのは片方の勢力が戦争で勝利した場合、エイレネの平和の感知に引っかかり、力を発動できなくなる可能性があるからだ。
「世界を平和にする旅に出ることを、私達は巡世録と呼んでいる」
そういうとイトは俺とエイレネの肩に手を置いて微笑んだ。
俺とエイレネは目を合わせて頷き、今度はイトに向き直って頷く。
イトはカイニスに向き直ると、手を合わせて集中していたカイニスは頷いてイトに合図を送った。
「八十、エイレネ。此度の巡世録、必ず成功させて戻ってきてくれ」
「わかった」
「任せてください!」
イトはカイニスを見て頷く。それが合図となり、カイニスの周りから風が巻き起こって只ならぬ予感が身を襲う。
「——力、『ありとあらゆる世界へ』!」
瞬間、何度か感じたことのある眩しい光が全てを照らし、俺は目を閉じる。
カイニスの力――空間移動。これがライナリーヴァの言っていた必殺技の扱いで詠唱も特別なのだろう。
空間移動が終わる頃には俺達は一つ目の世界にいる。決して失敗は許されない、最初の巡世録が始まる。
——光が収まる。それは空間移動が終わった合図。俺は意を決して目を開いた。
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