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第2話 世界の様子
Ⅰ
「……なんだよ、これ」
目を開いて真っ先に飛び込んできた光景は唖然とするものだった。
二キロメートル弱ほど続く荒野に惨劇の様子が伺える。多くの剣や弓、鎧——戦争に用いられるそれらが転がっている。
「——ッ!?」
全体を見るのではなく足の近くにあったものを見て言葉を失う。
そこにあったのは肘から切断された人間の一部だったもの。切断面は赤黒く固まっていて地面も変色している。
目を凝らしてみると、人間の一部だったもの——いや、人間そのものでさえ転がっている。
「……こういう世界なのですね」
すぐ隣から聞こえた声に目を向けると、エイレネが表情を歪ませながら力強くそう呟く。
その表情は怒りと悲しみが混ざり合っていた。
「大丈夫ですか、マスター」
「あ、あぁ……大丈夫。……マスター?」
転がる死体から無理やり意識を逸らして違和感を感じた言葉を聞き直す。
「この世界のヤトさんは私のマスターですから」
そう言ってエイレネは繕った笑顔を見せる。
俺はこの光景に驚いた。そう、ただ驚いただけだ。死がこんなに転がっている世界なのか、と。関わってきた人ではないからそう考えることができている。
俺はそうであってもエイレネは違う。平和の神格体だからこそこの光景は相当に——。
「——歩きましょう。前に見えるあそこが、私を呼んでいる気がします」
「あぁ、分か――っ」
俺はそうして初めてこの世界の前景を見て、あまりの異様さに再度言葉を失った。
まるで世界が二分されているかの如く、荒野の先にある城を中心として空が割れていた。
片方は青、もう片方は黒。本来あり得るはずがない朝と夜が同時に存在している。
荒野の左は青の世界。温かく、光が差していて意欲に満ちている。
荒野の右は黒の世界。静かで心地よく、落ち着くには最適だろう。
双方の世界は荒野と分断するように高い石壁が建てられていて、一目見るだけで隔絶されていると分かる。
「決して分かり合うことはできないのでしょうか」
この世界は対比する神格体が抗争を続ける世界。まさにそれが目の前に広がっている。
「生き残りがいるぞ!」
それは野太い男の声でエイレネが発したものではなく、ましてや俺のものではない。
声の主に視線を向けると、そこにはボロボロになった兵士が俺達を指差していた。
「何!?」
「殺せ、殺せ!」
「一人も生きて返すな!」
兵士たちが呼応し、剣を振りかぶってこちらへと走ってくる。
瞬間、呆然としていた俺を置いていくようにエイレネは走り出した。
「やっぱり走りましょう!!」
「はっ!? お前っ、走る前に言ってくれ!!」
この世界のマスターと言っていたにも関わらず、見向きもせず走るエイレネを追って、俺達は荒野の先の城を目指した。
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