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第3話 神格体中立城オベテロス
「はぁっ、はぁっ、撒いたか!?」
兵士から逃げる為に走って十五分ほど、目的地の城に近くなってきたところで振り返って確認する。
後ろに兵士の姿は無い。何分か前に一瞥した時は小さく姿が見えた程度だったから完全に撒けたと考えていい。
「ぜーーっ、ぜーーっ、ぷっはぁ」
俺が足を止めてから数十秒遅れて到着したエイレネ。息が荒いの域を超えてこちらを睨みつけてくる。
「へいっ、わ、わだっ、置いてくなんてぇ!! ひどっ、ですかぁ!!」
「な、何を言っているんだ」
「ふーーーっ!」
何かを言いたいのに息が続かないエイレネは大きく息を吐いて吸うを繰り返し、喋れるようになったと同時に口を開く。
「平和の神格体である私を置いてくなんてっ!! 酷いじゃないですか!!」
「最初に置いていったのお前だろ!?」
理不尽な文句に言い返すとエイレネは納得がいかないのか唸った後に、
「このっ、バカマスター!」
「な……っ、このポンコツ神格体!」
ふん、とお互いそっぽを向く。
置いていかれたから置いていっただけなのに文句を言われる筋合いはない。
なにより力でシールドを展開できるのなら一人でも大丈夫だろうに。
「とにかく……城に行かないといけないんだよな」
「フンッ、ええそうですね!」
まだ怒っているエイレネには触れず、俺は空を仰ぐ。
しかし広がっているのは空ではなく、異質な雰囲気を醸している十メートル程の城門。
木製でもなく、鉄製でもなく、材質は全く分からない。軽く触れてみても今まで触ったことのない感触で、それが地球に存在しないものだと理解するのに時間はかからなかった。
「フ、ンッ!」
駄目元で扉を力強く押すがビクともしない。
「ふふん、開かないでやんのー!」
「本当に最初と印象違うな! お前も開けられないだろ!?」
「へっ!? あ、開きますよ! 開けられますもん!」
「はぁ……じゃあ開けてくれ」
溜息を吐きながら俺は一歩下がってエイレネに開けるよう促す。
もちろん開くことはないだろう。エイレネに期待はしていない。しかしエイレネが城に呼ばれていると言うならどうにかして城に入るしかない。
俺は別の方法で入れないか考える。
「ほ、本当にいいんですか!? 開けれたらなんでも言うこと一つ聞いてもらいますよ!?」
「分かったから、頼んだ」
適当にあしらう。
「すーーーごく酷いことにしちゃいますよ! 私に開けさせない方がいいです!」
「……」
「ほら、こうやって触れたら勝手に開いちゃうかも――」
開ける気のないエイレネがぺたっと扉に触れる、と。
「は?」
「え?」
ゴゴゴゴ、と音を立てて大きな城門は開き始めた。
「え、私すご。え、開きましたよマスター! 開けました!」
「……」
「なんでも言うこと聞いてもらいますからね! すごく酷いんですから!すっっっごく!とても!!」
「……」
「無視しないでくださーーーい!」
やがて城門が完全に開くと、そこには一人の女性が頭を下げて立っていた。
「ようこそおいで下さいました、平和の神格体様とマスター様」
女性はぱっと顔を上げる。
「私は"予言"の神格体プロティフィア。貴方様方の来訪を、心よりお待ちしておりました」
その女性は言葉の通り予言者の礼装をしている。髪のほとんどを覆い隠す透けた紫色の女性用頭巾。同色のローブは足元や肩元など見えても問題ない部分は透けていて、頭にはペンダントがかけられている。ペンダントには青の宝石が額の中央に飾られていて、まさに預言者の雰囲気だ。
隠されていてあまり見えないが薄茶のウェーブのかかった髪が胸元まであるのだけ確認できる。身長は俺の胸元程度だから一六三センチほどだろうか。伏し目がちな様子と小さく微笑んで表情を崩さないことから落ち着いている印象があり、大人びているようにも見える。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私は"平和"の神格体、エイレネです」
「俺は九重八十」
するとプロティフィアは小さく頷いて、
「では、ヤト様とエイレネ様。これより対比神格体抗争の説明をします故、ご一緒願います」
振り返って歩き出すプロティフィア。俺とエイレネは頷き、後を追う。
「抗争の様子は御覧になられましたね」
俺達はそれに無言で返すと、それを了承と受け取ったプロティフィアは話を再開させる。
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