2人が本棚に入れています
本棚に追加
「この世界は二分する神格体の勢力によって抗争が繰り広げられています。片や"朝"の神格体であるプロイを統領とする勢力『朝の勢力』。片や"夜"の神格体であるニクタを統領とする勢力『夜の勢力』。この抗争を対比神格体抗争と呼びます」
俺はそこでとあることに気づく。
イトは昼の神格体を探せと言っていた。プロティフィアの話を聞いている限り争っているのは朝と夜の神格体。
ならば昼の神格体はどちらの勢力にも入ってないのではないだろうか。
「勢力が分かれたように、世界も分かれてしまいました。左の世界はずっと温かく、意欲に満ちているのです。右の世界はずっと静かで、心地が良いのです」
階段を上り、いくつもの門を過ぎ、長く続く廊下を歩く。
「二つの世界を統一する為、対比神格体抗争は始まりました。しかし対比する言葉は決して相容れません。存在する以上、争わなければならない」
やがて辿り着いた今までとは違う豪華な門の前でプロティフィアは足を止める。
「私はこの抗争を止めたいのです。相容れないと分かっているからこそ、対比する言葉がそれぞれの世界で過ごせるようにしたいのです」
するとプロティフィアは振り返り、頭を深く下げた。
「——どうか、お願い致します。対比神格体抗争に終止符を打つ為、"昼"の神格体ミスメリイを、殺していただけませんか」
俺はその言葉に驚くと共に一つの違和感を覚えた。
「それはできません」
「お、おい――っ」
プロティフィアの言葉に迷うことなく反対するエイレネ。
何も分からない以上、話を合わせておくべきと思っていた俺はエイレネを制止しようとする。
しかしエイレネの表情を見て俺は無駄だと確信した。
「争い事を止める為とはいえ、最初から犠牲を伴う選択を選ぶことはできません。私はどういう事情があれ、犠牲の無い選択を探します」
エイレネが平和の神格体だと実感したのはそれが初めてだった。
俺達はプロティフィアについてよく知らない。味方は多い方がいいからプロティフィアに話を合わせておくのが最善だ。
しかし最善であっても正しくはない。正しいのはエイレネだと、俺は断言できる。
「……分かりました。ご無礼を働いてしまい、申し訳ありません」
頭を下げるプロティフィアに俺は補足をつけることにした。
「昼の神格体を殺せば対比神格体抗争は終わるのか?」
「——っ、マスター!」
文句を言おうとしているエイレネを手で制する。
「確実に終わるとは言えませんが、終わる可能性が高いと私は考えています」
「分かった。後で理由を聞く時間を作ってほしい」
「マスター! 私は絶対に許さな――」
「だが、それを実行するのはその他に対比神格体抗争を終わらせる選択肢が無いと決まった時だ」
プロティフィアはしばらく考える素振りを見せた後、小さく頷く。
「じゃあ俺達の努力次第で昼の神格体を殺す選択をしなくていいっていうことだな。それでいいか?」
「……はい!」
これでプロティフィアと対立することはないしエイレネと喧嘩することもない。
「では、私の役目はここまでですので」
門の先が目的地のようで、プロティフィアは門に軽く触れた。
「この先、中立玉座の間に六と六——合計十二の対比する神格体が貴方様方をお待ちしております。それから先のお話は彼らに」
最後に失礼致します、と付け加えてプロティフィアは俺の横を通り過ぎて去っていった。
「もしかしたらこの扉も私じゃないと開かないかもしれませんね!」
「……お前、緊張感ってないのか?」
「えへへ」
これからこの物語の重要人物に会うというのに、能天気に冗談を言えるのはもはやエイレネらしい。
「あと、何でも言うことを一つ聞いてもらう件ですけど!」
「後にしてくれ」
「今じゃなきゃダメなんです!」
門に歩を進めていた俺はエイレネに制止され、門を前にして立ち止まる。
「お前っていうの、禁止です。私は、エイレネと呼ばれる方が好きです」
あぁ、なんというか。平和という言葉の神格体として顕現したのが彼女の理由がなんとなく分かった。
「わかったよ。今までごめんな、エイレネ」
「——はいっ!」
俺達は小さく笑い合って門に触れ、開く。
「——ようこそ、平和の神格体と人間よ」
赤いカーペットが奥にある玉座まで繋がっている。玉座の前は幅の広い階段が五段ほどあり、多くの豪華なシャンデリアが部屋を照らしている。
その手前——階段の下。赤いカーペットを境にして左に六人、右に六人——合わせて十二人の神格体が対比するように並んでいた。
「此処は神格体中立城オベテロス、中立玉座の間。この世界で唯一、抗争を禁止する中立の場所。此処にいる限り、貴様らの安全は保障しよう」
「だが、やがて此処は勝者の勢力に渡る。では、貴様らに問おう」
ビリ、と威圧感で身が震える。玉座のすぐ手前に立ち、似ている風貌をした白髪の男と黒髪の男。
彼らが朝と夜の神格体だと直感が告げている。その直感が、さらにもう一つ告げている。
「「平和の神格体よ、選べ。貴様はどちらに加担する?」」
溢れんばかりの殺気と、身が震えるほどの威圧に――コイツらの戦争を止めるのは無理なのかもしれない、と。
最初のコメントを投稿しよう!