第4話 六つの対比

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第4話 六つの対比

 Ⅲ 「私達はどちらの勢力にも加担しません!」  神格体中立城オベテロスの中立玉座の間で静寂を破ったのは力強い否定の言葉だった。  否定の声の主は平和の神格体エイレネ。その否定の声は、この世界の神格体である朝の神格体プロイと夜の神格体ニクタの半強制的な勢力の加入に対する答え。 「私はこの抗争を止める為に来ました。そんな私がどちらか一つの勢力に加担しまえば、もう片方の人々を(ないがし)ろにしてしまう。そんなことは決してできません!」 「エイレネ! やめろ!」  エイレネが否定したことによって生じた危機を真っ先に感じ取ったのはココノエ・ヤト。声をあげ、エイレネを止めることによってプロイとニクタの殺意の増加が止まる。 「どちらかの勢力に入ることは約束する! だが時間が欲しい! 入る勢力を選ばせてくれ!」  結果的にヤトの勢力に入ることを約束する選択肢は正しかった。  プロイとニクタは争い、命を奪うことに抵抗が無い。ここが中立を約束する場所だから奪わないだけで、敵となるのならばこの城を出た瞬間に命を奪っただろう。それは平和の神格体も例外ではない。  プロイとニクタはそれぞれ自分の勢力の神格体達に視線を向けると、彼らは総じて頷いていた。 「僕は女性の陽の気が気に入ったよ」 「ワイは男に陰の気を感じるね……同族の雰囲気だ」  一番手前の対比する神格体は言う。 「女性ノ感情的ナ言葉——イイ」 「男ノ理性的ナ言葉——イイジャネエカ」  手前から二番目の対比する神格体は言う。 「自分の意見を出すことができていいね! そっちの方が楽しいもん♪」 「嫌でも従わなければならない状況……とても、悲しい」  真ん中の対比する神格体は言う。 「いいねえお嬢ちゃん! やっぱ必要なのは、革新だァ!」 「そうだ、それでいい。男よ、その保守的な考えで貴様は救われた」  奥から二番目の対比する神格体は言う。 「女性からとても温かい心を感じます」 「冷たいのに優しい。好みの男」  一番奥の対比する神格体は言う。  全ての神格体の言葉を聞いて、プロイとニクタはしばらく考える素振りを見せた後に口を開いた。 「「プロティフィア、来い」」  その言葉とほぼ同時にギィと中立玉座の間の門が開く。  そこから現れたのはプロティフィア。歩を進めてエイレネの横を通り過ぎると、膝をついて頭を下げた。 「貴様の予言ではどうなっている?」  プロイの問いにプロティフィアは答える。 「彼らは世界の創生者(そうせいしゃ)からの使者で間違いありません。必ずミスメリイ様の復活に尽力して下さると予言が出ております故、無碍(むげ)に扱うより選ばせる方が得策かと存じます」  その言葉に違和感を覚えたエイレネの体が反応したのをヤトは見逃さず、エイレネの手を握った。エイレネはヤトを見る。  ヤトは小さく首を振るう。それを見てエイレネは聞こうとした意図の言葉を飲み込んだ。 「——そうか。では七日与えよう。三日を各勢力で過ごし、間に一日。その後に答えを出してもらう」 「一週間後の同時刻、選定の後に開戦とする。プロティフィア、後は任せたぞ」 「畏まりました」  プロイとニクタは背を向けて歩を進めると二人の姿は一瞬で消え、ようやくヤトは一息吐く。 「では先の三日は『朝の勢力(プロイソシア)』、後の三日を『夜の勢力(ニクタソシア)』として私が案内させて頂きます。各勢力の神格体様方もありがとうございました」  立ち上がったプロティフィアが頭を下げると、残っていた十人の神格体はそれぞれの勢力の街へと繋がる扉へと歩を進める。  そんな中、ヤトとエイレネはそれぞれ五人の神格体と目が合った。  やがて神格体達が中立玉座の間から姿を消すとプロティフィアはヤトとエイレネに向き合う。 「ヤト様、エイレネ様。三日を宿泊頂く部屋へご案内致します。お話はお部屋で」  ヤトは歩き出す二人の後を追うようにして思考を巡らせる。  他に選択肢が無かったとはいえ、言ってしまった以上どちらかの勢力に加担しなければならない。それはイトの忠告に反するものだが、目的は戦争を終わらせ、エイレネの神力(セオス)で平和にすること。  戦争の終戦の現実的な方法は二つ。和解か降伏。しかし今のプロイとニクタを見る限り和解も降伏も考えられない。二人は限界まで抗争を続けるだろう。  抗争によってどちらかが戦勝し、エイレネが神力(セオス)を発揮できるのなら朝と夜の神格体こそが最も重要な人物。  しかしイトは昼と分断の神格体を探せと言った。それはつまり―― 「……はぁ」  ——昼と分断の神格体が、和解か降伏の鍵を握っているのではないか。ヤトはそう考えていた。 「もう少し、教えてくれてもよかったんじゃないか」  ヤトは曖昧な忠告を残したイトに愚痴をこぼすのだった。
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