第5話 世界を平和にする方法

1/1
前へ
/38ページ
次へ

第5話 世界を平和にする方法

「では、私の考えをお話します」  場所は変わり神格体中立城オベテロスの左、『朝の勢力(プロイソシア)』が管轄(かんかつ)する客室。ヤト達が椅子に座ると開口一番にプロティフィアは言った。 「私は平和を願っています。争わず、犠牲を伴わずに抗争を終えれるのであれば、それが最善だと理解もしています。ですが、それは不可能だということも理解しています」  プロティフィアは一旦間を空けて、 「対比する神格体が相容れることはありません。それはエイレネ様もご存知かと思います」  それが意味するのは抗争は絶対だということ。それを確定的に伝えられているにも関わらずエイレネはそれに反論することはしなかった。  対比する神格体は決して相容れない。これは神格体の世界では絶対的で不変的な事実。互いの言葉が存在を否定するかの如く反対の意味を持つ言葉が相容れることがあってはならない。  相容れることは、自身に与えられた言葉としての存在意義を揺るがすこと。神格体が、自身そのものといっても過言ではない言葉を揺るがすことがあってはならない。 「私が想定している平和の未来は三つ」  指を一本立てて、 「抗争によって勝敗が決し、対比する片方の勢力が滅亡する」  指を二本立てて、 「対比が存在する神格体を全て滅ぼし、対比が存在しない中立の神格体を中心に街を再建する」  指を三本立てて、 「昼の神格体ミスメリイを殺害し、相応しい神格体を探し出して対比する神格体を隔絶する」  プロティフィアは立てていた指を下ろす。 「いくつか質問がある。いいか?」  ヤトはどの選択を選ぶかをほぼ決めていた。しかしそれを確定させる為、中立玉座の間でプロティフィアと話した時に感じた違和感とまだ出会っていない神格体について聞く必要があった。 「プロティフィアは昼の神格体を殺すのが最善だと考えているのは何故だ? 街を隔絶する神格体はまだ見つかっていない言いぐさだが」 「三つ目の未来は、私の希望です。成功すればミスメリイ様の犠牲のみで抗争の起きない世界を実現できるかもしれません。……対比する神格体を隔絶できる神格体は見つかっていないので、探して見つけられることが前提になってしまいます」 「対比する神格体を隔絶する神格体がいるのなら昼の神格体を殺す必要はないんじゃないのか」 「それは、不可能です」  プロティフィアのそれは力強く、どこか悲しい否定だった。 「ミスメリイ様が存在する限り、彼らを隔絶することはできないのです」 「……それは昼の神格体が中間的な位置にいるからか?」 「は、はい。仰る通りです」  ヤトは神格体の一部を理解しつつあった。  朝と昼と夜。それはこの世界の構図に似ているのだろう。  朝は『朝の勢力(プロイソシア)』。夜は『夜の勢力(ニクタソシア)』。そして今いるのは神格体中立城オベテロス。  構図合わせするのであれば神格体中立城オベテロスが昼の神格体だ。朝と夜の神格体と近い存在であるにも関わらず、反対の言葉を持たないからこそ相容れることのできる存在。  しかし朝と夜を隔絶するのなら間にいる昼の存在が邪魔になる。だからこそプロティフィアは犠牲の数を考慮して昼の神格体を殺害し、朝と夜を隔絶しようとしている。  ヤトはしばらく考え、答えを導き出した。 「昼の神格体は殺さない」  その言葉でエイレネの暗い表情に小さい光が差す。  ヤトのその選択は平和の神格体であるエイレネの前だから選んだものではない。昼の神格体を殺さない選択をしたのは違和感を感じているからだ。  プロティフィアの第三案はイトの忠告を守っている。  イトの忠告の一つは片方の勢力に加担しないこと。それは待っているのが勝利であれ敗北であれ大きな犠牲を伴う以上エイレネの神力(セオス)が働かない可能性を考慮してのもの。であれば、第一案と第二案はその時点で破綻する。  そして重要なのが昼の神格体と分断の神格体を探せ、という忠告。これはどちらの神格体も鍵を握っていることを示す。プロティフィアは隔絶する神格体の存在を知らないが、幸いヤトは分断の神格体がいることを知っている。  分断の神格体が重要視される以上、その(ゾイ)は使われるはず。であるのならば、昼の神格体がただ殺される為の存在なのか?  イトは殺せではなく探せと言った。そこに隠された真意を汲み取らなければならない。 「俺達はまず犠牲者を出さずに抗争を終わらせる方法を考える。だから今プロティフィアの案に乗ることはできない。ごめん」  ヤトは頭を下げる。それを見たエイレネもばっと頭を下げた。 「いえ。とても考えておられるように見えますので、きっと私の考えが至らなかったのでしょう。大変申し訳ありません」  プロティフィアは頭を下げて謝罪すると立ち上がった。 「今日はお疲れでしょうからまた後日時間がある時に話しましょう。あと数秒で寝鐘(しんがね)が鳴ると思いますので」  聞きなれない単語にエイレネが聞き返そうとすると外から大きい鐘の音が鳴り響く。 「左の世界では朝が続き、右の世界では夜が続きます。そちらにある時計が二十時を指すと寝鐘と呼ばれる鐘が鳴り、それを仕事の終わりや就寝の準備にしているのです」 「な、なるほど……この世界ならではなんですね」 「では、後程夕食をお持ちしますね。失礼致します」  一礼してプロティフィアは部屋から立ち去った。 「……とりあえずお部屋の確認します?」 「……そうだな」  難しい話が終わってヤトとエイレネは同室で泊まるということに気づきながらもお互い触れず、その代わりに設置されているベッドを見た。 「……」 「……」  ベッドは一つしかない。何度見ても、一つしかない。  ヤトは足早に部屋で布団が無いか探す。押し入れの中、洗面所、風呂場、トイレ、クローゼット。布団一式どころか掛布団一つすらない。 「……飯が来たら聞いてみるか」 「……そうですね」  二人は一旦考えることを放棄した。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加