第7話 信頼関係

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第7話 信頼関係

 Ⅱ 「ふゎ、ぁ……」  ふと目が覚める。朧気(おぼろげ)な意識が二度寝に就こうとする間際、視界に映った見慣れない部屋に意識が覚醒する。 「あ、ぅん? ……あ」  見慣れない部屋。アンティーク模様の青い絨毯(じゅうたん)小綺麗(こぎれい)なシャンデリア、彫刻が美しい白のテーブル、同じく椅子。  そして、その椅子に突っ伏す男の人。 「……何時だろう」  とりあえず時間を知りたい。カーテンの隙間から差す光は朝を示しているけどそれは頼りにならない。  ここは朝が続く世界。ようやく思い出してきた。 「二時……まだ寝れ、る……?」  時計の針は二時を指している。それが午前なのか午後なのか判断がつきにくいけど、午前だと思う。  私だけなら午後まで寝てしまっているかもしれないけどマスターはたくさん寝たりしなさそうだから。うん、大丈夫。 「……」  私はマスターを起こさないように翼をゆっくり羽ばたかせ、伸ばす。そっと布団から足を出し、立ち上がり、マスターの寝顔を覗く。 「ん、ぃ……」 「……え」  表情が少し歪んでいて小さい唸り声が聞こえる。苦しそうだ。  でもマスターは座って寝る方がよく寝れるって。人間には座って寝る方が心地よいと感じる人がいるって。嘘じゃないって。 「あれ?」  自己紹介で部屋を訪れた時のことを思い出す。  あの時、視界の端だけど映ってたはず。  ベッドは、乱れていたような。 「……気を使ってくれたんですか」  私はベッドから布団を手に取り、起こさないようにマスターを包む。  マスターは私のことをポンコツだと思っている。呆れてあしらうこともあるし、私のことを置いて走っていくし、無視することもある。 「——温かいなあ」  でも、私が先走ったら止めてくれる。危なくならないように補助してくれる。嘘を言うけど、気を使ってくれる。  私は、この心の温かさが好きだ。願いが叶うのなら、誰もがこの温かさを感じて生きてほしい。 「ありがとうございます、マスター。最初はちょっと怖かったけど――」  私は隣の椅子をゆっくり引いて、マスターの椅子にくっつけ、座る。まだ温もりの残る布団を肩にかけて、マスターと向かい合うように腕を組んで突っ伏した。 「——今は優しい人なんだなって、思います。おやすみなさい」  そうして、私は眠りに就いた。
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