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「じゃあまずはご飯を食べに行こう!」
神格体中立城オベテロスと朝の世界を分ける城壁の門を抜け、俺達は街へと繰り出していた。
街は多くの暖色に包まれていた。家屋は和風や洋風といった感覚で表現できるものではなく一言で表すならファンタジー世界の始まりの街。波の形をした屋根の家屋や砂時計の形をした家屋など、様々な所に家が建ち、それと同じように多くの葉を付ける木々と共生している。
朝の世界だからなのか街行く人々の表情も明るく、店が並ぶ中央通りは会話が溢れていて活気がある。
「ここにいるのは皆人間なのか?」
「ほとんど人間で一部神格体ってところかな♪」
神格体は一目で分かりやすい。エイレネであれば鳩の翼とオリーブの葉をモチーフにした髪飾りをしているし、外見に言葉の特徴は出ていないエイシオでも接してみれば人間らしくはない。楽観という言葉の神格体だと分からなくても、それに近い言葉だというのは分かる性格をしている。
周りに外見が特徴的な人物はいない。ほとんど人間というのは信じていいだろう。
「あ、ケノトミア! やっはろ~♪」
「エイシオか! 相変わらず意味の分かんねえ挨拶だなァ!」
エイシオが名前を呼んだ先にいたのは金色の髪に赤のメッシュが入っている少年。確か、中立玉座の間で『朝の勢力』側の四番目に喋っていた。
「今、彼女らを案内している最中でこれからご飯行くんだけどケノトミアもどう?」
「ん゛~、行くかァ! 刺激がねえと革新的な発想は生まれねえからなァ!」
たぶんコイツは刺激か革新の神格体だ。非常に分かりやすい。
「オレは"革新"の神格体ケノトミア! よろしくなお前ェら!」
ケノトミアと名乗った少年は活気溢れる朝の世界に相応しい外見をしている。金色の逆立つ髪に赤色のメッシュが入っていて、逆八の字の眉毛やキリッとした目つきと赤い瞳は性格を表現しているようだ。
服装は露出が多いというより上半身はほぼ露出している。隠れているのは胸元と横腹程度で、綺麗に六つに割れている腹筋や形の良い大胸筋、腕の全体的な筋肉から鍛え抜かれていることが分かる。下半身はバギーパンツをさらにワイドに広げたパンツで動きやすそうだ。
「私は"平和"の神格体エイレネです! よろしくお願いします!」
「俺は九重八十、人間だ」
ケノトミアが求めてきた拍手にエイレネが先に応じ、次に俺が応じる。
「よし♪ 自己紹介も終わったところで近くのお店に入っちゃおう!」
エイシオが先導して入った木造建築の店の上部には『朝の酒と喧騒』と書いてある看板が掲げられている。
別世界でも日本語で表記されているのは創作パワーか。まぁ、その方が分かりやすくていい。
後を追って店に入ると雰囲気はザ・居酒屋といった感じで酒を飲みながら会話が弾んでいる様子の客が多い。
「こっちこっちー!」
すぐ席を取っていたエイシオに手招きされる。ケノトミアがエイシオの隣に座り、その向かいに俺とエイレネが座る。
「さぁて何にしよっかな~♪」
メニューを手に取ってパラパラと捲るエイシオ。俺はあくまでメニューを選ぶついでの話として柔らかく話を切り出す。
「俺達を誘った理由はなにかあるのか?」
メニューを見る視線が一旦こっちに向いたかと思えばすぐにメニューへと戻る。
「それはお酒のつまみになるお話を求めてるって解釈でいいのかな♪」
「酒のつまみにならなくていいが、気楽に話してもらえればいい」
するとエイシアはメニューをケノトミアに渡した。
「お? オレ好みに頼んでいいのか? 全部辛くなるぞォ?」
「あ、ボク甘いので」
「あ、じゃあ私も甘いので」
「俺はなんでもいい」
「お前ェらで選べやァ!」
と言いつつケノトミアはメニューをパラパラパラと高速で捲り、メニューを選び始めた。
「それで? 誘った理由かぁ」
エイシオがテーブルに腕を置き、交差させて前のめりになる。
今から話すことが難しい内容になると思ったのかエイレネはケノトミアとメニュー選びに入っていた。
「それはもちろん楽しそうだから♪ それじゃダメ?」
「ダメだ」
「ちぇーっ」
エイシオは不満そうに唇を尖らせる。
「そうだね~……ぶっちゃけると、キミ達が『朝の勢力』に入ってくれるよう勧誘しにきたんだ♪」
接触してきたからには何か目的があると考えていたが、その内容がどんなものか想像がついていなかった。聞けることは全て聞いておこう。
「俺達が『朝の勢力』に入ることがそんなに重要なのか?」
「重要だぜ。お前ェらの命にも関わることだからなァ」
もう頼み終わったのかケノトミアが口を挟む。するとエイレネは分かりやすくあたふたし始めて、
「そうです、重要なんですよマスター」
「無理に入ってこようとしなくていい」
「ヒンッ」
蚊帳の外になるのが嫌なんだろうがエイレネには黙っていてもらおう。
「それは勢力抗争が敗北したらの話か?」
「お前ェらに関係あるのはそこだなァ。オレらについて負けりゃ、そりゃ死ぬぜ。だがそれ以上にオレらにとってお前ェら――いや、お嬢ちゃんに価値がある」
ケノトミアが指を鳴らしてエイレネを指差す。不貞腐れて話を聞いていなかったのかエイレネはきょとんとしていた。
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