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決着のつかない小競り合いの抗争から時は過ぎ、寝鐘が鳴ってしばらく。俺とエイレネは寝る準備を全て終わらせたが寝れるような心境にはなれていなかった。
俺は部屋の椅子に座っている。エイレネはその隣の椅子に座っている。その表情は言葉で表すには難しく、ただただ顔を俯かせていた。
「……」
俺は思い出したくない記憶を思い出す。
俺は怒りを露わにした。何故この抗争を俺に――いや、エイレネに見せたのか、と。
エイシオは言った。
『この世界の現状を知らせる為さ』
俺は、それを必要だと思った。世界を平和にしようというのだから、世界のことを知っていなければいけない。平和ではない理由を知らなければ、平和を求めるのはおかしいと思ったから。
それならば俺だけでいいじゃないか。少なくとも俺は吹っ切れている。戦争のない世界なんてない、人の死なない世界なんてない、と。ただエイレネは違う。
戦争のない世界なんてない、人の死なない世界なんてない。そう知っていても、彼女は一つの戦争に怒りを覚え、一人の死に泣く。一つでも無くしていきたいと、そう願っている。
『平和だ平和だと求めるのは勝手だがなァ。その平和を求める道中に亡くなった奴らがいるんだよ。ソイツらを知らない野郎が世界を平和にして、亡くなった奴らは報われんのかァ?』
『キミ達が平和にしようとしているのはこういう世界さ。これを見て心が揺らいでいるのなら、他の何かを心配しているようならば。キミ達の心は、いとも簡単に折れてしまうと思う』
俺は何も言えなかった。
ただ目の前の惨劇に言葉を失う平和の神格体を前にしても。
俺は、何も言えなかったのだ。
「……明日も、抗争があるのですね」
エイレネは小さく呟いた。
エイシオは毎日抗争があると共に明日は温暖と寒冷の神格体が戦場に出ると言い残し、ケノトミアと立ち去った。
「その明日も、抗争があるのですね」
エイレネは再度、小さく呟いた。
「じゃあ見に行かなければいけませんね」
「——っ」
エイレネはそう言って顔をあげ、苦しい表情で笑顔を作っていた。
「……行こうか」
「はい」
俺は見に行かなくていい、という言葉を飲み込んでそう言った。
心の底から分かっている。エイシオとケノトミアは俺達の為に抗争を見せた。その意味と意図も理解している。
だからこそ見ないわけにはいかない。これから一週間、毎日繰り広げられる抗争を。
「明日に備えて寝ましょうか。一緒に、ベッドで」
「あぁ、寝るか。——ん?」
「一緒に、ベッドで寝るんです。ほら、来てください!」
「ま、待て――ッ」
急に手を引っ張られたかと思えば遠心力を利用してベッドに放り投げられ、エイレネは電気を消す。俺の制止をお構いなく、流れるようにベッドに寝転がり、布団を肩まで被るエイレネ。
「俺は座って寝た方が――」
「こっち向いて寝ないでくださいね。私の泣き顔、見たくないでしょうから」
その言葉に思わず俺は悔しさが表情に出そうになってしまう。俺はそれを察知される前に反対を向いて寝転がり、布団を被る。
「……エイレネがそっち向けばいいだけだろ」
「うるさい口ですねぇ」
「……」
「あ、今のイーピっぽくないですか?」
「……うるさい」
「あ! 今のもイーピっぽくないですか!? あ、でもイーピ風に言うなら、今、とてもイーピ的ありませんでしたか? ですね!」
「……」
「……~~っ」
耐えきれなくなったのか、エイレネは布団を頭まで被った。
「……俺も辛かったよ。一緒に乗り越えよう。おやすみ」
「……は゛いっ、お゛や゛ずみな゛ざい」
正直に言えば、今まで俺は巡世録を仕方ないと考えていた。
世界を平和にするだとか、俺には関係ない。ただそうするしか選択肢がなかったから、そう選んだだけ。
しかしもうそんなことは言ってられない。こんな感情をエイレネが一人で背負うにはあまりに大きすぎて、重すぎる。
俺が一緒に背負う。それには世界を平和にする必要がある。
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