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第9話 朝と昼と夜
Ⅲ
——時刻にして午前二時。両方の世界で暮らす人々が寝静まる中、中立玉座の間に二つの影があった。
玉座の手前、階段の下で相対する影。
片や朝の神格体として世界に顕現し、『朝の勢力』の統領として夜の支配を目的とする、名をプロイ。
片や夜の神格体として世界に顕現し、『夜の勢力』の統領として朝の支配を目的とする、名をニクタ。
この世で最も相手を憎み、抗争を続ける二人が同じ目的を持ってそこを訪れていた。
「……」
「……」
二人は言葉を発さず歩き出し、幅の広い階段を上る。
二人の外見は一目で見分けがつくものの、ほとんどのパーツが酷似している。見分けがつくのは色があるからで、色がなければ各勢力の神格体でさえどちらがどちらか判断することはできないだろう。
プロイは髪が白く、ニクタは髪が黒い。同じように、瞳も。同じように、ピアスも。同じように、服装も。
プロイが階段の一段目を左足で踏み出せば、ニクタは階段の一段目を右足で踏み出している。彼らは確かに対比する神格体だった。
そんな二人が唯一、同一と呼ぶべき点があった。
二人は玉座の手前に立ち止まる。
「「偉大なる昼よ」」
二人が唱えると玉座の背後にあったカーテンが開かれ、その先にある重々しい扉がギギギ、と音を立てて開く。
プロイとニクタは共に足を進める。
その扉の先が作られたのは十年前。それはかつて三つの空が存在していた中で、唯一中立と不変を望んだ者が目を覚まさなくなってしまった日。
対比する神格体の相容れなさを知りながら、その一筋の混じり気の無い憎悪を知りながら、それでも理想を求めた昼の神格体が眠っている。
彼女は神格体でありながら、まるで人間のような理想を求めていた。
彼女はプロイとニクタによく理想の話をした。
『どこか遠い世界に、朝と夜が一緒に存在する世界があるかもしれない。きっと二つが共にいる世界ではないけれど』
そんな世界は存在しない、と。プロイとニクタは言い聞かせていた。しかし彼女は首を横に振るばかりで理想の話を続ける。
『朝が来て、昼が来て、夜が来る。そして、また朝が来るの。そしたら貴方達が争わなくていいのに。そんな世界が存在すればいいのに』
それはまだこの世界ができて数年の話だ。朝の世界や夜の世界と別れておらず、空が朝と昼と夜に染まっていた昔の話。城壁も、荒野も存在していない、昔の話。
彼女のそんな理想事が世界の抗争を四十年遅らせた。本来ならすぐ起きてしまうはずの、自身の存在意義を証明する為の抗争を。
しかしその四十年は朝と夜の支配力を強めてしまった。空は次第に朝と夜が昼を侵食し――昼は消えてしまった。
それが昼の神格体ミスメリイが眠っている理由。
「約一週間後、この抗争は終わる」
プロイは空間の中央にあるカプセルの中で眠るミスメリイに呟く。
「待ち望んでいた、存在証明の刻を迎える」
ニクタは空間の中央にあるカプセルの中で眠るミスメリイに呟く。
「ニクタを消したら、また戻ってきておくれよ」
「プロイを消したら、また戻ってきておくれよ」
彼らが対比する神格体である以上——この抗争は対比を殺すまで終わらない。
これは彼らが存在を証明する抗争であり、定められた宿命。
―—そして、愛する女性を取り戻す物語。
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