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「僕ノ力ハ喜怒哀楽ノ感情ニヨッテ四大元素ヲ操ル」
すると表情は変わって緑色の下線のない三角の目と上線のない逆三角の口が表示される。
「ボクハ喜怒哀楽ノ喜! 風ヲ操ルヨ!」
すると表情は変わって赤色の逆八の字の目と下線のない三角の口が表示された。
「俺ハ喜怒哀楽ノ怒! 火ヲ操ルゼ!」
すると表情は変わって青色の八の字の目と下線のない三角形の口が表示された。
「ワ、私ハ喜怒哀楽ノ哀。水ヲ操ルノ」
すると表情は変わって黄色で円の上半分の目と大きい円の下半分の口が表示された。
「僕ハ喜怒哀楽ノ楽! 土ヲ操ルンダ!」
すると表情は変わって白色の横線の目と口が表示された。
「神力ハ四元素使エル」
一見ふざけているようにしか見えないが、この力は今まで出会った中で一番強力かもしれない。
四元素——つまり火水風土をあの出力で操れるなら国の一つを滅ぼせてもおかしくない。人間が相手にすれば即敗北の神格体だ。
「……分かった、ありがとう」
原理を知っておけば敵に回した時でも対抗できるかもしれない、と考えていた俺が馬鹿だった。エイレネの盾で防げるイメージは湧かないし、何よりこれと対比する神格体が『夜の勢力』にもいる。
最悪どちらかの勢力に入った場合、遭遇したらそこで終了だ。肝に銘じておくしかない。
「あ、あの! ティマタさんは機械なんですよね?」
意を決した表情で質問を投げかけるエイレネ。俺は機械か否かを聞くその質問で、次にする質問を理解した。
ティマタは液晶を器用にスライドさせて頷く。
「な、なら! 機械なら、相手を憎む感情は無いんじゃないでしょうか! それなら争わなくても!」
ティマタはエイレネに向けていた液晶を俺でもなくエイレネでもない、真ん中に向けた。
「憎ム感情ハナイ」
その言葉にエイレネは目を見開き、言葉を続けようとしたところでティマタは口を動かす。
「タダ壊ス」
それは対比する神格体であるにも関わらず憎む感情を持たないことに、一筋の希望を見い出したエイレネの期待を粉砕する無情な言葉だった。
「な、なんで」
「僕ハ機械デアル前ニ神格体。神格体ナラ、君モ分カルハズ」
どこまでいっても対比する神格体に希望はない。俺はそれを薄々感じ取ってしまっていて、機械であろうと希望などないことはなんとなく分かっていた。
ただ可能性があるのなら希望を抱くのがエイレネだ。それも分かっているからこそ俺はエイレネを止めないし、現実を突きつけるティマタも止めることはできない。
「……すみません」
前のめりになって腰が浮かんでいたエイレネは椅子に座り直す。
こうして希望が砕かれるのは仕方のないことだ。ティマタは当たり前のことを当たり前に伝えているだけで、誰かが悪いわけではない。
「エイシオ、ケノトミアガ言ッテイタ。君ハトテモ優シイ」
ティマタはコロコロと転がってエイレネの前で止まり、液晶を正面へと持ってくる。
「僕ハ思ウ。君ハ、コノ世界ニ向イテナイ」
非情に感じるその発言を俺は正しいと思った。
平和と抗争は対極にある言葉だ。この世界風に言うなら、対比している。
対比している神格体が存在する限り抗争は続く。その抗争が何十年も続いているこの世界はエイレネに向いているとは思えない。
「そんなことはありません」
エイレネの強い意志を感じる言葉に俺とティマタの視線が向く。エイレネは小さく微笑んで言葉を続ける。
「確かにとても辛いことが続いていますが、私はこの世界に来たことを後悔していません」
「ナゼ?」
ティマタは間髪入れずに疑問を投げた。
それは当然の反応だ。神格体なら相容れないことを知っているから抗争の終着点が揺るぎないものだということを知っている。
どちらかの勢力の、対比する神格体が全員滅びること。それが抗争の終着点だということを疑わない。
「平和じゃないことを知ったからです。平和な世界に私が行ったところで、意味がないですから」
その言葉に俺は思わず笑みを零す。
向いていないのは確かだ。争い事がある世界である以上、平和の神格体のエイレネが向いている場所なんてあるはずがない。
だがそれでも平和にしようと強い意志がある。
「それに、一緒に頑張ってくれる人がいますから」
思わずエイレネを見る。エイレネはこちらを一切見ず、自慢げな表情で言っていた。
するとしばらくしてティマタは楽の表情に変わり、
「避妊ハ大事ダヨ!」
そう言ってぴょんぴょんと跳ねたかと思えばテーブルから降り、転がって扉を開けた。
「ツイテキテ! 待タセテイルカラ!」
ティマタが扉を開けっぱなしで廊下へと飛び出す。
赤くなりながらもティマタの後を追うエイレネを前に、俺はどうやって扉を開けたのかが気になって仕方がなかった。
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