第10話 左の世界と神格体 -2-

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「次ヲ左折、スグ右折。右ニ見エル店」  昨日と同じように今日も街へと繰り出す。  街の様子は一切変わっておらず、目的地も食事を摂る店のようで、エイレネが指示を出すティマタを抱えて移動していた。  ティマタの指示で右に見えた店は裏通りにあり、洒落た白と青の外装をしているカフェ。テラスにいる男性がこちらに気づくと立ち上がって近づいてくる。 「ティマタ、案内お疲れ様」  その男性はティマタの頭を撫でた  この男性は中立玉座の間で一番手前にいた記憶がある。発言は――思い出せない。ただ他の神格体のように特徴的なわけではなく、好青年の印象がある。 「立ち話もなんだから座って。ティマタはこっちだ」  ティマタはエイレネの腕から飛び立って男性の腕に移り、男性によってテーブルの上に設置される。  俺とエイレネは男性の向かいに並んで座った。 「さて、じゃあ自己紹介から。僕は"陽気"の神格体チャロメノス。チャロとかチャロメって呼ばれてるから呼び方は任せるよ」  陽気の神格体チャロメノス。ベージュ寄りの金色の髪や耳の輪っかピアスと爽やかな表情から陽気の神格体ということに納得する。前髪は目にかかっているが目を隠すほどではなく、後ろ髪は首にかかる程度。若干キリッとする眉毛と薄水色の瞳は爽やかさを(かも)していて、女性に人気のありそうな見た目をしている。  服装は襟のあるシャツに青のネクタイ、ジャケット、スキニーのパンツを履いていて創作世界の服装というより地球のラフなスーツ姿という表現が正しい。 「それと君達のことはエイシオから聞いているから自己紹介は大丈夫」  するとそこで店員から三つのカップが運ばれ、それぞれの前に並べられる。 「エイレネさんは甘めのカフェラテ。ココノエ君はコーヒーだけど大丈夫?」  どうやら先に頼まれていたもののようで俺は一般的にこういう人間が陽キャと呼ばれるのか、と納得した。いや、人間ではないか。 「大丈夫です、ありがとうございます」 「ありがとう」  チャロは微笑むとカップの(ふた)を開け、マドラーを手に取ってかき回す。 「ココノエ君は(ゾイ)も知りたい人?」  かき回しながら、まるで試すように視線だけで俺を見るチャロ。  正直言うと、知りたい。(ゾイ)を知ればもしもの時に対抗できる手段を用意できるかもしれないし、知っておいて損はない。  ただ試すような表情をしているのは俺の意図を読み取っているからだ。だが、俺は敢えて聞くことにした。 「あぁ、知りたい」 「ふふ、素直でいいね。見ていて」  チャロは躊躇(ちゅうちょ)なく(ゾイ)を教えてくれるようで、パチンと指を鳴らすとその先に薄黄色に光り、高速で回転する光の玉が現れた。 「僕の(ゾイ)は陽の気を具現化させて様々な用途で利用することができるんだ」  指先にあった玉が次々と形を変えていく。 「引き延ばして体のどこかを守る盾にもできるし、拳に(まと)わせてパワーをあげることもできる。全身に纏えるほどあれば全体的な身体能力が向上するし、さらに陽の気が多ければ数を問わず強化することができる。それが僕の(ゾイ)だよ」  陽の気というのは所謂(いわゆる)楽しいや嬉しいなど当人にとってプラスの情を指すのだろう。強度や強化の度合いによるが味方に付与できることも考えると使い勝手の良い(ゾイ)だ。 「特にエイシオとの相性が良い。彼女の(ゾイ)が発動していれば多くの人から陽の気を抽出して使えるからね」 「……確かに」  (ゾイ)を単体で考えていたが、エイシオの皆を前向きにする(ゾイ)とは相性が良い。前向きとはつまり陽で、それを利用できるなら陽の気の質量の問題はなくなる。 「神力(セオス)は陽の気をさらに好き勝手に使えるようになる。それこそ大きい獣とかね。これで信用してもらえたかな」 「……俺が(ゾイ)を知りたがる意図を知っていてもちゃんと言うんだな」 「それはもちろん。僕達が懸念しているのは君達の信用を得れず、『夜の勢力(ニクタソシア)』に行ってしまうことだからね」  チャロはそう言うとティマタを自分の前から横のスペースに動かし、肘をついて俺を見据えた。 「エイシオさん曰く、ココノエ君はまだ知りたいことが多くある、と。その話にエイレネさんは入らないとも聞いたけど大丈夫かな」 「え、わ、私入れます――」 「あぁ、大丈夫だ」 「……ティマタさんお話ししましょう」  昨日も感じたがエイシオは頭が良い上に察しも良い。見た目と喋り方からそう思えなかったが、ここまで先を見据えられていると怖くなるほどだ。 「でも僕は楽しい会話をしたいから意地悪をするかもしれない。それでもいいなら」 「上等だ」  意地悪というのは嘘ではなく、分かりにくい言い回しや考えさせる意味合いがあることを俺は理解して返す。
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