第2話 言葉の神格体——エイレネ——

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第2話 言葉の神格体——エイレネ——

「ん、……?」  コンコンというノックの音で目が覚める。  見慣れない天井に辺りを見渡す。テーブルと椅子、本棚にベッド。意識がはっきりとして昨日の出来事を思い出す。  そうだ、俺は別世界——コスモスに移転して、説明を受けた。突拍子もない現実を聞かされ、エイレネに自室まで案内してもらってすぐに眠りに就いた。 「ノックされたよな」  ベッドから起き上がり部屋のドアの前に立つとドアは勝手に開く。廊下には翼をバタバタさせているエイレネが立っていた。 「おはようございます! 昨日の自己紹介の件、覚えていますか!」 「……おはよう」  挨拶を返す間に思い出す。  自己紹介。確かエイレネに案内してもらって自室に着いた時、そんなことを言っていたような。 「忘れてますね! もう一度説明させて頂きますと、私達とこれから行動を共にするにあたって自己紹介の時間を設けました! マスターが!」 「そのマスターっていうのは桐生イトのことか?」 「はい!」  小説の登場人物であるエイレネ達にとって、小説の作者である桐生イトはマスターということか。 「では失礼します」  ぺこっと頭を下げて部屋に入るなり椅子に座るエイレネ。  俺はベッドに座る。 「これから行動を共にするって、具体的に何をするんだ?」 「あーっ! ダメ、ダメです! お互いのことを知る時間だから余計な事を言わないようにと口止めされてます!」 「……」  初対面の時はもっと、こう……丁寧な敬語で落ち着きがあったのに、最初に抱いた印象とかけ離れているのは何故なんだ。  エイレネはごほんと咳払いする。 「私は"平和"の神格体、エイレネです。好きなものは鳩とオリーブオイル、嫌いなものは争い事と、嫌われることです!」 「は、鳩とオリーブオイル?」 「はい!鳩を見かけたら餌付けしますし、ご飯にはオリーブオイルをかけます」  気になる。ご飯にオリーブオイル、美味しくないのは分かるが気になる。しかしそれより気になることがある。 「ご飯食べるのか?」 「あ、当たり前です! 元は言葉ですけど、人間の機能を持ち合わせてますし性別だってあるんですから!」 「そ、そうか……」  何故か怒り気味に答えられたが、神格体にとって人間かどうかを聞かれるのは好ましくないのかもしれない。 「ちなみにご飯にオリーブオイルって美味しい?」 「はい!とても!」 「周りは何も言わないのか?」 「はい!」 「……本当に言わないのか?」 「一週間かけ続けたあたりから何も言われてません!」 「……そうか」  周りからは諦められているということはそういうことだろう。そっとしておこう。 「私の(ゾイ)は、私が平和だと認めた時にオリーブの枝を(くわ)えた鳩を羽ばたかせ、平和を脅かす事象を禁止することができます」 「……そういうことか」  鳩とオリーブの枝は平和の象徴とされることが多い。だから平和の神格体であるエイレネは鳩とオリーブオイルが好きなのか。  オリーブではなくオイルの方が好きなのかは聞かないようにしよう。 「平和を脅かす事象を禁止って……そんなことが可能なのか?」  平和を脅かす事象。しっかりと定義は決まってないことは間違いない。それを禁止できれば戦争などが起きないということなら強力な(ゾイ)だ。 「はい、可能です。とても難しい条件ですが、私が(ゾイ)を使うことができればその世界は平和になります」 「エイレネが平和だと認めても実際に平和じゃない可能性だって」 「それはあり得ません。私は平和を知覚することができるので、本当に平和な時にのみ(ゾイ)を使うことができます」  平和の神格体だからなのか、説得力がある。  本当に平和な時にしか使えない能力なら強力ではあるけどカイニスのように便利な力ではない。 「それとこれから自己紹介に来る神格体達はヤトさんの基本情報は知っていますので! 名前、性別、年齢、誕生日、血液型など!」 「……基本情報というより個人情報じゃないか」 「ではそろそろ時間なので失礼しますね。一人三十分ほどで定められているので!」  そういうとエイレネは立ち上がり、一礼してせっせと部屋から出ていった。
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