第5話 言葉の神格体——エピキノニア——

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第5話 言葉の神格体——エピキノニア——

 ライナリーヴァが立ち去った後、しばらくしてカンッカンッと金属と金属の衝突音が鳴り響く。  ノックの音には聞こえないが叩かれたのは俺の部屋のドア。すぐにドアを開けに行く。 「はい」 「失礼」  扉の前にいた三本足の生えた、緑色に発光するカメラレンズがついている機械はそう言うと、俺には目もくれず部屋に入って椅子に座る。  キュィィンと音を立てたかと思うと三本足は球体に収納され、完全な球体と変わった。 「懐かしいですねぇこの殺風景な頃の部屋は。今思えば初期の配置こそ、より無駄がなく美しかったのかもしれませんね」  すると球体はこちらを向いて、 「今、とても人間的ではありませんでしたか?」  会議室の時を思い出す。  そういえば右側のテーブルに座っていたのは一人と球体。あの球体は機械だったのか。 「唖然としている様子。私はデータを参照するので懐古の情はありませんが、初対面で懐古するのは人間らしくないということでしょうか。ふむふむ、勉強になりますねぇ」  ダメだ、話についていけない。こっちはただでさえ言葉の神格体が人間だけではないという事実を受け止めるのに時間がかかっているのに。 「では自己紹介を。私の名前はエピキノニアですが長いので皆さんにはイーピと呼ばれています。呼び方はご自由に。"通信"の神格体ですが見ての通り機械です。チキュウの言葉を借りると人工知能ですねぇ。ちなみに"通信"の神格体だからといって侮ってはいけませんよなんせ私は通信も()事乍(ことなが)ら情報処理全般可能な超高性能ですそこの所よろしく」 「……」 「おや? 戸惑っているようですねでは簡潔にまとめましょう。ゴホン」  機械が咳払いする必要があるのか、は一旦置いて。 「私、イーピ。通信の神格体。人工知能。ですが侮ってはいけませんよ情報処理全般可能な超高性能ロボットです」 「そ、そこは大事なんだな」 「えぇもちろん。私の沽券(こけん)に関わりますからねぇ」  初見だったから単語の多さや早口、聞きなれない機械音声に戸惑ったが重要な箇所だけ聞き取ればいい。もう戸惑うことはない。  エピキノニア、は球体に三本足が生えた機械。球体の正面、中央にカメラレンズがあり、周りは緑色に発光している。中央のカメラレンズが目の役割を果たしているのだろう。球体に線が多く入っていることから三本足が生えてきたように他の機能があることが分かる。言葉を流暢(りゅうちょう)に喋ることから性能の高さが伺える。 「私は特定の人物に対して通信を繋ぐことができます。対象に対し、回線を飛ばして脳波に受信させ、通信していますので妨害がないこと前提ですが」 「テレパシーみたいなものか?」 「それは超感覚的知覚なので違いますが、まぁそんなところでしょう。ちょっと失礼」  そういうとイーピは足を取り出し、ジャンプして俺の頭に乗る。すると三本足の中央が発光し、しばらくして俺の頭から降りて椅子に座った。 『もしもし? 聞こえてますね?』 「お、おぉ、すごいな」  イーピの声が頭の中に響く。これは便利だ。 『頭の上から言葉を放る感覚で、言葉を思い浮かべてくれます?』  頭の上から、言葉を放る。言葉を、思い浮かべる。 『あー、あー』 『なんですかその低予算で作られたアダルトアニメの喘ぎ声みたいな声は』 『……それになんて返せばいいんだ俺は』  なんで変なことを言われた俺が若干恥ずかしい気持ちになってるんだ。 「まぁこんな感じでアナタも私の通信対象です。諸々の説明はマスターがすると言っていたので詳しいことは話さなくても問題ないでしょう。では、私の(ゾイ)についてお話しますよ」  人工知能と言っていたが確かに淡々と話を進めていく感じはどこか機械的だ。  イーピの目——であろう部分——がピコピコと発光する。 「私の(ゾイ)は繋いだ回線に一度だけ入り込み、回線の波を泳いで干渉することが可能です」 「……どういうことだ?」 「つまり回線を用いて動いているもの――例えば機械やプログラミングされたシステムであれば入り込み、破壊するのも修復するのも容易いということ。まぁもちろんあまりにセキュリティがしっかりとしていれば不可能もありますけどね」  通信の神格体だが通信だけではなく機械的なことであれば全てこなせる、という解釈で問題はないだろう。  あの会議室にいたのがこの世界に存在する全ての神格体ではないはずだ。カイニスやイーピの(ゾイ)は実用的で、きっと何かの目的の為に選ばれている。 「考え込むタイプなんですねぇ」 「……そう見えるんだな」 「ふーむ。マスターの采配は果たして正しかったのか、未来が楽しみですねぇ」  するとイーピは椅子から飛び降り、カタカタと部屋のドアへ向かっていく。  廊下へと出てドアが閉まる前、イーピは振り返った。 「アナタは、おそらく賢い。ですが賢さは時に本質を見ないようにしてしまう。そうならないといいですねぇ」  イーピの発言の終わりに合わせるようにドアが閉まり、姿が見えなくなる。 「……人間観察する機械、か」  イーピの言葉がどういう意図で言われたものであれ、覚えておくに越したことはないか。
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