第6話 言葉の神格体——カンフィ――

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第6話 言葉の神格体——カンフィ――

 イーピが立ち去ってすぐ、入れ替わるようにコンコンッとノックが響く。  気を取り直して立ち上がりドアを開けると、そこには赤い髪を左右に分けて両側で結い垂らした女性が腕を組んで立っていた。 「入るわよ」  如何にも気の強そうな女性は俺の了承を待たず部屋へと入り、辺りを見渡した後、ベッドに腰を下ろす。 「あたしはカンフィ! "闘争"の神格体よ。(ゾイ)は時間制限アリで超常的身体能力を得る! あなたは!?」 「えっ、は!?」 「あなたは!?!?」 「こ、九重八十っ」 「そう、ヤトね! よろしく!」  あまりに適当すぎる自己紹介。しかしカンフィと名乗った女性はそれで十分のようで、立ち上がった。 「あたしのことをしっかりと見て覚えておきなさい。あなたがこれからイッッッチバンお世話になる人よ!」  なんなんだ、コイツは。他の神格体も特徴的だったが、コイツは異次元すぎる。  カンフィは俺が見る時間をくれているのか、立ち上がって俺を凝視する。  カンフィは発言に負けぬ強気な外見をしている。全体的に赤が基調なのもあるが、彼女の赤い吊り目の瞳と腕を組むことが多いことや堂々とした立ち振る舞いが気の強さを表している。ツインテールというと幼い印象があるが、カンフィのツインテールは小さく、後ろ髪は腰あたりまで伸びていることと大人びた体で打ち消している。勝気な表情に喋ると可愛らしい八重歯が覗かせ、可愛い大人の女性という印象。  服装が特殊で体の線がモロに出るタイトな服装。創作世界の中でよく見かけるロボットに乗る登場人物が着るピッチリとしたスーツだ。 「恥ずかしくないのか?」  率直な疑問を投げかける。聞いてしまった後に煽りのようになってしまったと思って訂正しようとするより先にカンフィは口を開いた。 「一ミリも恥ずかしくないわ。機動性重視よ。まぁ、見る人によっては胸の大きさも分かられるでしょうけど、あたしに視線が向いている時点で私の勝ちなの」 「か、勝ち?」 「そうよ! だって相手の視線があたしに向いているのはなんで? 可愛いから、エロいから、恥ずかしい格好をしているから? 可愛くないより可愛い方が良いの、エロくないよりエロい方が良いの!」  ふふん、と鼻を鳴らして言うカンフィ。言いたいことは分かるような気がするが、人によるような。 「恥ずかしい格好だと思うのは無知よ! だってあたしが(ゾイ)を存分に発揮する上で必要なんだもの! だから、あたしの勝ち!」  にこっと笑顔を見せるカンフィ。  勝気というのは間違いないが、それ以上にカンフィは無邪気という印象が深まった。勝ちに(こだわ)るところはまだ分からないが、おそらく闘争の神格体だからだろう。 「もういいわね。さぁ、勝負よ!」 「はっ!?」  唐突な勝負宣告をすると俺の手を引っ張ってテーブルの上に置き、肘を付けられる。カンフィは向かい側に回って肘を置き、俺の手を握った。 「腕相撲。ルールは分かるわね?」 「な、なんで急に」 「いいから、本気でやりなさいよ。準備はいい?」  自分勝手すぎるがカンフィに反論は通じないと感覚的に分かる。  俺は腕に力を込める。勝ちに拘るカンフィに勝つ必要はない。ある程度力を出して、わざとらしくないように負ければ収まりがつく。  正直言うとカンフィの体は華奢だ。全体的に体の線が細く、力があるようには思えない。負けることはないだろう。 「よーい、ドンッッッ!!」  瞬間、バギャンッ、と本当にそんな豪快が音が部屋に響く。 「——はっ?」  勝敗は一瞬だった。  テーブルに手の甲が付いているのはカンフィ。しかし、そのカンフィの手に腕相撲で敗北した俺の手の甲がある。  あまりに圧倒的な力で押し倒された俺の手がテーブルに叩きつけられる前、カンフィは逆の手で俺の手が叩きつけられないように包んだ。そこまでは優しいものの、そのまましっかりテーブルに叩きつけられた。  結果、敗北——というより、勝負にすらなっていない。 「あたしの勝ちね。格付け完了、これからあなたはあたしの言うこと順守よ」 「は!? そ、そんなの――」  そんなの聞いてないぞ、という言葉を遮るようにカンフィは顔をぐんと近づけてきて吐息がかかる距離で止まった。 「まず、勝負事には本気になりなさい。分かった?」 「——っ」  思わず頷く。まさか気づかれていたなんて。 「ま、なんとなくあんたのことは分かったわ! これからあたしが鍛え直してあげるから、覚悟しておくことね!」  そう言って颯爽と部屋から立ち去っていくカンフィ。 「神力(セオス)、教えてくれなかったな……」  嵐が去って一気に静かになった部屋で、俺はヒリヒリしだした手の甲を撫でた。
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