第一話 柔らかに出会い

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第一話 柔らかに出会い

 ニューヨークに行こうと思ったきっかけは、同僚の突然死だ。  廊下で何度かすれ違った程度の付き合いしかない人だった。だけど、私よりも健康そうに見えた人の突然の死に、酷く衝撃を受けた。  『人生は百年なんかない、今生きているのだって単純に運が良かっただけなのだ』――そう思った。『だったら』行きたい場所に行こう、『だったら』やりたいと考えたことは全部しよう、『だったら』いつかなんかじゃなくて今、やろう。  やらない後悔をするぐらいならやった後悔をしよう、と、『行動』に写した。  『つまり』、衝動のままに仕事を辞め、値段も見ないでニューヨーク行きのチケットを買ったのだ。  市村(いちむら)みどり、二十五歳にして、あまりにも向こう見ずな行動だったと今は反省している。が、そんな反省、飛行機に乗ってからしても遅すぎる。 「Good afternoon, (皆さま、こんにちは)everyone. Welcome aboard...(ご搭乗まことにありがとうございます……) 」  機内放送を聞きながら、私は今更、ため息をついた。
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