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それから彼はあの日の約束をしっかりと守り、毎年この桃色が散り出した時期にやってくるようになった。勿論、一人なんかではない。
あの異国の女性と共に私の桃色が散り行く姿を見に来るのです。
私を見上げて美しいと言う多くの人の中でも彼と女性の姿には気が付いてしまう。一層、気が付かなければあの二人の関係が終わったのだと淡い期待も抱けるのに。そんな期待すら抱いたところで私と彼が結ばれることは確実に無いのだけれど。
そうして何度目かの散り際。遠くの方から二人がやってくるのが感じられて、今年も彼の姿を確認できる喜びと、やはり一人ではないという落胆を複雑に絡ませながらそちらに意識を向ける。
しかし、これまでと比べて私の元に辿りつく速度が遅いように感じた。ゆっくりとゆっくりとこちらへ近付く二人。そしてその二人の速度が遅い理由が、分かってしまった。
女性のお腹が、大きく膨らんでいる。
そしてその重みを分けて受け持つように繋がれた、手と手。
「大丈夫? 辛くない? 」
「うん、平気よ」
「今年くらい無理しなくても良かったのに」
「もう生まれるからこそ、何百年も生きる先輩から力をもらいたかったの」
異国の女性は流暢にそう言って私をしっかりと見据えた。美しくて強い眼差しに気後れしてしまう。
「……どうかあなたのように、逞しく、優雅で、健気な、誰をも魅了するような素敵な女の子になりますように」
私を高く見上げた女性はお腹に手を当てて目を閉じ願を懸ける。これまでも私に向かって願い事を唱える人は多数いたけれど私は神でも仏でもないから叶える術を持たないのになんて愚かなんだと心の中で蔑んでいた。でもこの願いは。私への心からの敬意じゃないか。
私が美しいのは外見だけ。さらに言うとこの時期だけであって内面はこのようにどす黒く、彼が心に決めたあなたに妬みという感情を持っているのに。こんな理解し難い願いを聞いて、彼はどう思っているのか。
彼に意識を向けると私なんかより圧倒的な生命力を放つ女性の横で、温かくひたむきな視線を女性に向けていた。
……これはもう、敵わない。
前世も現世も私が愚かだから。きっと私と彼はこんな結末なのでしょう。
次に生を受ける時はもっと前向きで素直でありたい。その為には前世の記憶も現世の記憶も、自分の事を嫌いだと理由を付けては自身を呪うような内面も抹消して、運命と呼べる形でまた彼と巡り合いたい。
私は彼と彼女、そして彼女の中で育つ命に願を懸けた。
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