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 青山通りを渋谷方面に下っていく途中に、ガラス張りの家具屋があった。山崎が「入ってもいいですか」というので、彼についていくことにした。ビルに挟まれたその家具屋は、おおよそ広さに余裕があるわけではなかったが、その中に置かれている家具たちは「おしゃれ」な距離感で並んでいた。テーブルやソファだけでなくあらゆる置物が展示(陳列というより、展示と言った方がしっくりくる)されていたが、ひときわ目立っていたのが、腰の高さほどあるゴリラの置物だった。全身がガラスでできたそのゴリラは、買う気もないのに店に入ってきた俺たちを縄張りから追い出そうとしているようにも、逆に買われることを拒んでいるようにも見えた。その威圧感に負けて、俺は早々に店を出ることを提案した。山崎はまだ少し物足りなさそうな感じはしたが、素直に従った。彼も口には出さないだけで、同じものを感じていたのかもしれない。去り際に、ゴリラの前を慎重に通った。そして、そこに立たなければ見えない角度に、小さく値札が貼ってあった。『1,020,320円』  それを見て、俺は足を早めた
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