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第71話 魔族領からの帰還
魔王とカレンの結婚式も終わり、アレスとゼリアはビボーナ王国へと帰還する事になった。魔王からはいろいろと相談したい事があるようだが、アレスはまだ王太子、実質的な権力を持っているのはまだ父親である。仕方ないので魔王は我慢して、魔族領をもう少し安定させてからビボーナ王国を訪問する旨を、アレスへと託した。
アレスの方もそれを了承する。
「連絡自体はゼリアとグミが居るから問題はないだろう。カレンにも念話の事は教えておいたしな」
「魔物って便利な能力持ってるのね。グミ、よくも隠してたわね」
「だって、カレン様が怖すぎて言えなかったんですよ。自分の奇行が家族に筒抜けなんて嫌でしょう?」
「よーし、グミ。そこに直りなさい」
「ひええっ!?」
カレンが拳をボキボキ言わせながら、笑顔をグミに向けている。その笑顔が不穏すぎてグミが青ざめている。
「カレン様、暴力反対!」
「いいえ。これは暴力ではないわ。躾けよ、し・つ・け」
後ずさるグミに、カレンが徐々に詰め寄る。
「カレン、そこまでにしておけ。何かあるとすぐ力に物を言わせようとする。お前の悪い癖だ」
「……お兄様がそこまで仰るのでしたら、やめておきます」
アレスがため息混じりに言うと、ようやくカレンの動きが止まった。それを見てグミはほっと安心したようである。本当に、すぐに暴力訴えようとするのは、カレンの悪い癖だ。魔王もどうにかしたいと正直思っている点である。当のカレンだけはどこ吹く風という感じなだけに、何とも気の遠くなる話である。
「妹はあんな感じだが、いい牽制になるだろうな。うまく使ってやってくれ」
「ああ、そうさせてもらう」
アレスは魔王を気遣っていた。その横では両方のやり取りにうまく入れなかったゼリアが一人佇んでいた。
「では、そろそろ帰らさせてもらおう。父上たちを待たせてしまっているからな」
「うむ、ビボーナの国王によろしく伝えておいてくれ」
アレスと魔王は、こつりと右の拳をぶつけ合った。
「お姉ちゃん、たまには遊びに来てね」
「うん、まあ、許可は難しいけれど、頑張ってみるわね」
グミはカレンと二人にされるのが嫌なのか、ゼリアに泣きつくようにお願いをしていた。眷属のプリンとヨーグルでは、カレンの一撃に耐えられない可能性があるせいか必死である。その一方でゼリアも王太子妃となったので、自由な時間はそこそこ無くなっていた。暗に無理だと返していたのだったが、グミもさすがは姉妹とあってかそこは読み取っていたので、口を尖らせて悔しがっていた。ここまで嫌がられるカレンの粗暴さよ……。
「それでは、アレス殿、またいつでも来てくれ。その時はカレンと一緒に待っているぞ」
「そうだな。次はお互い、子が生まれた時だといいものだな」
魔王の言葉にアレスがそう返すと、どういうわけかゼリアは真っ赤になっていた。それに対して、カレンが疑問符を浮かべている顔がなんとも不思議である。こういうのは人間の方が詳しくないのだろうか。
それよりも、アサシンスライムが人間の子を産めるのかという疑問はあるが、それはそれでどうにかなりそうにも思える。いろいろと不可能を突破してきたゼリアだ、多分大丈夫である。
ゼリアたちの乗る馬車が魔王城を出発する。ゼリアとグミは手を大きく、ルチアとカレンが手を小さく振り合っていた。こういうところは、元々のつながりの大きい方と似ているようである。城門を出るところで、危ないからとゼリアとルチアは馬車の中に身を引っ込めた。
「いや、カレン様のドレスは素晴らしかったです。元々仕えていた身として、あの姿にはとても感動致しました」
「分かります、ルチア。しかし、あのカレン様がドレスを破かれるような事がなくてよかったです」
「ええ、まったくです。私はその事でもとても感動しております」
女性陣二人が妙な事で盛り上がっている。二人してどんな風にカレンの事を思っているのか、そう突っ込みたくなるところだが、アレスとフレンも否定する様子はないので、全員の感想のようだ。
「それにしても、魔界ではああいう色が流行りなのか?」
「結婚衣装の色は特に決まっておりませんが、魔王様の一族は紫系を基調とした色合いで統一されております。これは人型の魔族の間では部族ごとで異なってますね」
どうやら、色に特に決まりはないようだ。ただ、普段とは違う飾りつけの衣装を使うというのは、人間たちと共通のようである。
これ以外にもいろいろとゼリアたちは帰りの道中で話し込んでいた。もちろん、魔族領を抜けるまではゼリアによる対魔族、対魔物の結界は忘れずに張っておいた。何が起こるか分からない、それが魔族領なのだ。
こうして、ショークアへの新婚旅行から始まったゼリアたちの旅程は終わりを告げる。まったくもっていろいろな事が起きたものである。
特にダーティスライムの一件は驚かされた。人間の街で堂々と暮らす魔物はあれくらいではないだろうか。あの姿に、ゼリアはちょっと勇気をもらった気がした。
間もなく城へと戻る。
これからは、ゼリアには王族としての生活が待ち受けている。果たしてゼリアはちゃんと王族として振舞えるのだろうか。少し、心配なのである。
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