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アスラが迫ってくる。 ここからが六刀流の本番だと言わんばかりに、凄まじい気を発しながら近づいてくる。 だが、ケットはそれでもあきらめずに逃げ続けた。 暗い夜で月明りを頼りに進んでいく。 アスラもケットをあきらめない。 宙に浮く五本の剣を連れて、彼女はまだ追いかけてきていた。 「すばしっこい奴だな。しかし、さすがに行き止まりではどうしようもあるまい」 そして逃げ続けているうちに、崖っぷちまで追い詰められてしまった。 ケットはこれ以上は逃げられないと悟り、振り返って大きくため息をつく。 そんな彼女を見たアスラは、ようやく観念したかと思ったが――。 「なんだ? わたしとやる気なのか?」 ケットは身構えた。 拳を握った両手を上げて、五本の剣とアスラと向き合う。 そのスタイルからケットが体術使いだと察したアスラは、剣を構えてじりじりと距離を詰めていく。 「捕まるわけにはいかないんだよね。あたしには約束がある」 「ふん。では捕らえた後で、その約束とやらを聞かせてもらおうか。はぁぁぁッ!」 ケットとアスラが互いに踏み込んだ瞬間、崖が崩れてふたりは下へと真っ逆さまに落ちた。 (もろ)くなっていた地面が、ふたりの踏み込みに耐えられなかったのだ。 このままでは地面に激突してしまう。 最悪、死ぬかもしれない。 アスラは冷や汗を掻きながらなんとかしようとしたが、落下している状態ではできることなどなかった。 「くッ!? しまった! 捕まえることばかりに気を取られて状況を見てなかった! このままではマズい!?」 「ちょっとあなた! 早くあたしに掴まって!」 「いきなりなんだお前は!? うわッ!?」 ケットは落下中にアスラの体を抱きしめた。 突然の行動に戸惑う彼女を無視して、ケットは声を張り上げる。 「妖精流奥義……オーラカノン!」 ケットはアスラを抱えたまま、片手を地面へと(かざ)していた。 光が次第に彼女の手に集まると、それが波動となって発射される。 放たれたオーラの衝撃によって、ふたりは地面に激突する前に飛ばされ、事なきを得た。 「ふー、なんとかなったね。って、うわッ!?」 アスラはケットに剣を突きつけたが、すぐに鞘へと収める。 しかし、彼女は納得のいかない顔をしていた。 それも仕方がない。 追っていた怪しい人物に、まさか命を助けられてしまったのだから。 「怪しい奴だが、一応は恩人……。それでも事情を話してもらわんと引くに引けんぞ。さあ、話してもらおうか」 「一応が好きだね、あなたって……。まあ、いいや。隠すようなことでもないし」 「隠すようなことじゃないなら先に話せ!」 「あなたがいきなり斬りかかって来たからでしょ! そりゃ誰だって逃げるわ!」 ふたりはワーワーギャーギャーとしばらく言い合った後、互いに改めて名乗ってようやく話をした。 まずはケットが建物に侵入した理由――。 「あたしはたまごを取り戻そうとしてたんだよ」 ケットは、とある盗賊団に奪われたドラゴンのたまごを取り戻そうとしたらしい。 だから建物が盗賊団のアジトだと調べた彼女は、まるで泥棒のように侵入したのだと言う。 「ドラゴンのたまご? そういえば連中が出て行ったときに、ずいぶんと大きな荷物を持っていたが、あれはたまごだったのか」 「はい、あたしはぜんぶ話したから、次はアスラの番だよ」 「番だよって、お前なぁ……。まあいい。わたしがあの建物を見張っていたのは、上から命を受けたからだ」 まるで友人のように接してくるケットに呆れながら、アスラは話を始めた。 どうやら彼女は軍の命令で、建物にいる盗賊団のことを調べていたようだ。 その盗賊団の名はバラッドフッド。 すべての国を統べる世界連合によって公認された盗賊団のひとつで、犯罪者への略奪行為や殺人行為が認められてる組織だ。 とはいっても団長であるバラッドフッドの姿を知る者は少なく、建物にはその傘下の盗賊が集まっていたようだ。 「えッ? どうして軍人のアスラが、世界連合公認の盗賊団を調べてるんだよ? 味方じゃないの?」 「一応、公認とはいっても所詮は盗賊だからな。まあ、組織といっても一枚岩ではないということだ」 また一応と言った――ケットは本当にその前置きが好きだなと思いながら、アスラに訊ねる。 「じゃあ、あいつらがどこへ行ったのか、アスラは知ってるってことだよね?」 「当然だ。それがわたしの仕事だからな」 「なら教えてよ! バラッドフッドが許されているのは犯罪者からの盗みだけなんでしょ? あいつらが奪ったのなんの罪もないドラゴンのたまごなんだよ!」 アスラは、切羽詰まった顔で迫ってきたケットに苦い顔を返した。 彼女の現在の立場的に、民間人への協力は仕事に含まれてはいない。 しかもバラッドフッドは、アスラの使う言葉でいうなら、一応は世界連合の組織なのだ。 もしこの猫の獣人の娘が嘘を言っていた場合、アスラは軍に背くことになるが――。 「……わかった。だが、場所を教えるだけだぞ。それと、もしお前が言っていることにひとつでも嘘があったら、その場でお前を捕らえるからな」 「ありがとうアスラ! これでたまごが取り戻せるよ!」 しかし、アスラはケットに救われたことを思ってか。 彼女に場所を教えることにした。
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