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――その後、ケットはアスラに連れられて、盗賊団バラッドフッドのいる場所へと向かった。 その場所は、人里離れた山にある洞窟だった。 出入り口まで案内したアスラは、ケットに不可解そうに訊ねる。 「お前はどうしてここまでするんだ? そのドラゴンに恩があるとか何かなのか?」 「恩なんてないよ。ただそのお母さんドラゴンは、毒のせいで動けなくなってたからさ。代わり取り返してあげたいなって」 ケットの返事を聞いて、アスラはさらに顔を歪めた。 ただの善意で危険なことに首を突っ込んだのか? そんなことで命を懸けるなど、アスラにとってはあり得ないことだった。 相手は傘下とはいえ、世界連合公認の盗賊団バラッドフッドだぞと、彼女は理解に苦しむ。 「じゃあ、場所を教えてくれてありがとね、アスラ」 「ちょっと待て! ここは連中の隠れ家なんだぞ! うかつに入ったら何があるやらッ!」 「へーきへーき。あたし、こう見えても結構強いんだから」 ケットはニッコリと微笑むと、ひとり洞窟へと入っていってしまった。 残されたアスラは思う。 自分の腕に自信があるという彼女の口ぶりがあながちハッタリではないことは、先ほど崖から落ちたときに見た技でわかる。 魔法とは違う、見たこともない光を放つ体術。 名はたしか妖精流と言っていたが、もしかしたら亜人のみが使える格闘術なのかもしれない。 しかし、いくらケットが強くとも相手は盗賊団バラッドフッドだ。 抜かりのないことで知られるバラッドフッドの配下ならば、隠れ家に罠を仕掛けている可能性は高い。 実力はありそうだが、どうもその辺の認識が甘そうなケット。 アスラは自分とは関係ないことだというのに、なぜか胸がざわつく。 「くぅ、借りは返したはずなのに、気分が晴れんな……」 ――ケットは洞窟の中を走っていた。 洞窟内は壁に松明が付けられており、夜である外よりも明るい。 道も分かれることなく一本だけで、迷わず進むことができた。 奥にはバラッドフッド傘下の盗賊たちがいると思われるが、元々話し合ってたまごか返してもらえると、ケットは思ってはいない。 「まあ、一応たまごを返してって頼んではみるけど、無理だよね……って、あたし今一応って言っちゃった!? ヤダなぁ、もう。アスラの口癖がうつっちゃったのかなぁ」 洞窟内を進んでいくと、ケットは大きく広がった空間にたどり着いた。 そこには剣を持った男たちが待ち構えており、今に斬りかからんとばかりにいきり立っている。 「おい、猫の小娘(こむす)。テメェだな。ここ最近オレらのことを()ぎ回ってたってのは。ノコノコ隠れ家までやって来やがって、一体なんのつもりだよ?」 男たちのひとりが口を開き、ケットに声をかけてきた。 その口ぶりからして、これまでのケットの行動はすべて盗賊たちに知られていたようだった。 ケットは「あちゃー」と猫耳を寝かしてため息をつくと、すぐに表情を真剣なものへと変える。 「あなたたちがたまごを盗んだからでしょ? あたしはそれを取り返そうとしてるんだよ」 「テメェ、頭おかしいのか? 調べてんならオレらがどこのもんか知ってんだろ?」 「だってせっかくたまごを産んだのに子どもができないなんて、お母さんドラゴンがかわいそうじゃない。そんなのいくら世界連合公認の盗賊だからって許されないよ」 ケットがそう答えた瞬間、男たちが一斉に襲いかかってきた。 前から同時に三方向から刃が飛んでくる。 だがケットは突かれた剣を避けながら、一瞬のうちに三人の打ち倒し、その後ろにいた敵へと駆け出していく。 「妖精流、奥義フェアリーアタック!」 その叫び声と同時に、ケットの全身が光に包まれた。 彼女はそのまま跳躍して空中で回転すると、そのまま体当たりして男たちを吹き飛ばしていった。 まるで相手にならない。 戦いはこのままケットの勝利で終わると思われたが、突然地面に仕掛けられた魔法陣の罠が発動し、彼女は身動きができなくなってしまう。 残った盗賊たちは、剣を手にケットへと近づいてくる。 勝ち誇った顔で、バカな侵入者を始末しようと。 「うわッ!? なんだよこれ!? 動けないじゃん!? ズルい! こんなの反則だよ!?」 「……だから言ったんだ。中には罠があるとは」 ケットがやられてしまうかと思われたとき、いきなり五本の剣が現れ、彼女を救った。 声のするほうに振り返ったケットは、笑顔で声をあげる。 「アスラ! 来てくれたんだ!」 そこには、六刀流の女剣士アスラが立っていた。 アスラはケットの身動きを封じている魔法陣を剣でかき消すと、彼女と共に盗賊たちを倒していく。 「お、お前!? 六刀流のアスラだろ!? いいのか!? オレたちはバラッドフッド様の!?」 「外道と話す舌は持たん!」 どうして自分たちを攻撃すると言われても、アスラはけして手を止めなかった。 まるでケットと何年も一緒に戦ってきた相棒のような連携(れんけい)をして、あっという間に敵を一掃。 それから気を失った盗賊たちを(なわ)でしばり、ふたりは洞窟内を進んでドラゴンのたまごを探す。 「あった! あったよ、アスラ!」 「ちょっと待て、ケット。たまごが見つかったのは良かったが、あれ、ヒビが入ってないか?」 ドラゴンのたまごを見つけて安心したのも束の間。 たまごにはアスラがいうようにヒビが入っていた。 盗賊たちが運んでいるときに入ったのか? ともかくこのままでは割れてしまうと、ふたりはたまごの目の前で大慌てになっていた。 「あわわ! どうすればいいのアスラ!? そうだ! 回復魔法とか使えばいいんじゃッ!?」 「たまごに回復魔法をかけたなんて話は聞いたことないぞ! それよりも何か粘着性のあるもので補強したほうがッ!」 声を張り上げ合いながら彼女たちが騒いでいると、たまごがピキピキと音を立て始めた。 ケットをアスラは慌てながらもたまごが割れないように手で押さえようとしたが、ふたりの願いも虚しく、たまごは割れてしまった。 「そ、そんな……お母さんドラゴンと約束したのに……」 アスラは肩を落とし、ケットのほうは目に涙を浮かべていた。 だが、うつむくふたりに向かって割れたたまごの中から鳴き声が聞こえてくる。 なんとそこには、ドラゴンの赤子がいた。 子猫や子犬ほどの大きさの子竜を抱き上げ、ケットが声を張り上げる。 「よかった! 本当によかったよぉぉぉッ! ()きててくれてありがとう!」 「それを言うなら、()まれてくれてありがとうじゃないか。まあ、そんなことはどうでもいいか」 その後、ケットは子竜を母のドラゴンのもとへ送ることにしたが――。 どうしてだか子竜はアスラに懐いており、彼女もケットと共にドラゴンの巣へ行く羽目になった。 「わたしはこれから、バラッドフッドに手を出した後処理をしなきゃいけないんだが……。こう見えても一応、軍人だし……」 「ハハハ。アスラったら、また一応って言ってる。いいからお母さんドラゴンのところへ行くよ」 「おい、そんなに早く歩くな、ケット! こっちはドラゴンとはいえ、赤ん坊を抱えているんだ!」 ひょんなことからコンビを組んだケットとアスラ。 ふたりはこれからも多くの事件に巻き込まれていくのだが。 それはまた別の話。 了
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