狂おしいほどに愛おしい

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これ、なんていうか知ってる。 お母さんが大好きだったテレビドラマとおんなじだ。 三角関係。 おじいちゃんは桜のことが好きで、桜もおじいちゃんのことが好き。 そして、孫の衣織くんも桜のことが好き。 桜の木を中心とした奇妙な関係が、神奈の前で描かれている。 だめだ、これに巻き込まれてしまっては。 そう思うのに、神奈はもう手遅れであることを知っていた。 自分もその関係の中に取り込まれつつあることを。 衣織に惹かれている。 衣織くんのことが好き。 甘やかな春の匂いを感じる。 これがどこから来るのかと思ったら、風に大きく枝を揺らす桜の木があった。 (春が、桜の花を咲かせるんじゃない。桜が春を運んでくるんだ) 人と桜、どちらが狂っているのかなんて分からない。 どうして、人が桜に性愛を抱くことを否定したのだろう。 どうして、桜が人に恋する可能性を否定したのだろう。 なんでそんなことあるわけがないと思ってしまったのか。あるいはそう思いたかっただけか。 お父さんから教えてもらって、知った気になっていた自分が恥ずかしい。ぐずぐずに痛む心とともに消えてなくなってしまいたい。 神奈は、涙でぼんやりとかすむ桜の花を睨み上げた。 狂おしいほどに、目障りな花を。
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