割れた中身

1/4
前へ
/14ページ
次へ

割れた中身

 顔を見合せた私達は休憩所に入った。  神妙な面持ちで話すアナウンサーの頭にも、グレーのたまごが浮かんでいる。読み進めるうちに1か所、2か所とヒビが入っていく。  男性のたまごが割れるまさにその瞬間、スマホで撮っていた人がいたらしい。    不思議な映像だった。街中を並んで歩く夫婦は最初、映像の端に映っていた。男性の頭上、極限までヒビが入った緑のたまごが割れて、次の瞬間たまごは消えた。撮影者が夫婦をズームする。  次の瞬間、隣にいた奥さんの頭に、同じ緑色のドロドロがかかっていた。まるで、割れたたまごの中身だけスライドしたみたいに。  ドロドロは頭に垂れて、意志を持っているかのように女性の体を覆っていく。人間たまごかけごはんとでも言ったらいいのだろうか。ごはんじゃないけど。  「なにこれ!」と叫んで、女性は意識を失いその場に倒れた。周りから悲鳴が聞こえて、映像が乱れる。 「女性は病院に運ばれ、意識に混乱が見られるものの命に別状はないとのことです。原因の究明が急がれます」と引きつった顔でアナウンサーは締めくくった。 「ええ……割れたら他の人の頭に中身が落ちるってこと?  緑のたまごと、緑のドロドロだったよね」  小石主任の言葉が遠く聞こえる。私は別なことを考えていた。   ――本当に私が精神的に追い詰められたせいでたまごができたなら。  いっそ、部長の頭に落ちればいいのに。 「三羽ちゃん、たまごが」 「え?」  見上げると、私のたまごが割れようとしていた。ヒビの隙間がだんだん空いていく。  中身は、と思って見るも何もない。休憩室の天井がのぞくだけだ。 「嘘」  びっくりして瞬きすると、たまごは消えていた。  久しぶりの視界の広さ。 「消えた?」 「どうして……」  その時、遠くから男の人の叫び声がした。 「今のって」 「営業部から聞こえたわよね」  騒ぎに休憩室から顔を出すと、ちょうど大岩先輩が営業部の部屋から出てきたところだった。 「主任、三羽さん! 大変だ、部長の頭に白いものが!」  私達は顔を見合わせ、駆け出した。  部屋へと飛び込む。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加