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割れた中身
顔を見合せた私達は休憩所に入った。
神妙な面持ちで話すアナウンサーの頭にも、グレーのたまごが浮かんでいる。読み進めるうちに1か所、2か所とヒビが入っていく。
男性のたまごが割れるまさにその瞬間、スマホで撮っていた人がいたらしい。
不思議な映像だった。街中を並んで歩く夫婦は最初、映像の端に映っていた。男性の頭上、極限までヒビが入った緑のたまごが割れて、次の瞬間たまごは消えた。撮影者が夫婦をズームする。
次の瞬間、隣にいた奥さんの頭に、同じ緑色のドロドロがかかっていた。まるで、割れたたまごの中身だけスライドしたみたいに。
ドロドロは頭に垂れて、意志を持っているかのように女性の体を覆っていく。人間たまごかけごはんとでも言ったらいいのだろうか。ごはんじゃないけど。
「なにこれ!」と叫んで、女性は意識を失いその場に倒れた。周りから悲鳴が聞こえて、映像が乱れる。
「女性は病院に運ばれ、意識に混乱が見られるものの命に別状はないとのことです。原因の究明が急がれます」と引きつった顔でアナウンサーは締めくくった。
「ええ……割れたら他の人の頭に中身が落ちるってこと?
緑のたまごと、緑のドロドロだったよね」
小石主任の言葉が遠く聞こえる。私は別なことを考えていた。
――本当に私が精神的に追い詰められたせいでたまごができたなら。
いっそ、部長の頭に落ちればいいのに。
「三羽ちゃん、たまごが」
「え?」
見上げると、私のたまごが割れようとしていた。ヒビの隙間がだんだん空いていく。
中身は、と思って見るも何もない。休憩室の天井がのぞくだけだ。
「嘘」
びっくりして瞬きすると、たまごは消えていた。
久しぶりの視界の広さ。
「消えた?」
「どうして……」
その時、遠くから男の人の叫び声がした。
「今のって」
「営業部から聞こえたわよね」
騒ぎに休憩室から顔を出すと、ちょうど大岩先輩が営業部の部屋から出てきたところだった。
「主任、三羽さん! 大変だ、部長の頭に白いものが!」
私達は顔を見合わせ、駆け出した。
部屋へと飛び込む。
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