ヒビ

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「三羽ちゃん、芸能人みたいに騒がれる気分はどう?」と小石主任。 「ぜんっぜん嬉しくないです……」 「俺、今朝会社近くの駅で三羽さん見たけどさ」  お手製の卵焼きを口に頬張りながら、先輩が話す。 「すげーの。モーゼみたいに人がさーっと避けってって。  神様みたいだったな」 「だから嬉しくありませんって」  今朝から写真を撮られたり、騒がれたりで大変だったのに。 「まぁ大丈夫、俺と主任はたまごが浮いてるくらいじゃ引いたりしねーよ」 「大岩先輩……」 「三羽さんが変なのはいつものことだし」 「大岩先輩ぃ……」  私はじとっとした目で先輩を見る。 「それにしても、たまご以外は本当にいつもの三羽ちゃんね。体調もよさそうでホッとしたわ」 「小石主任……」と私が半べそをかいた時。 「ここにいたのか」  ドアの方向から、独特のだみ声がした。 「永野(ながの)部長」   私達は途端にしん、と静かになる。  空気が変わったことなど気にせず、部長は大きな声をあげる。   「三羽、午前中に出してきた書類、ちゃんと見たのか?  不備が何か所もあるんだが」  私は立ち上がった。 「……すみません、すぐ直します」  部長はまるで蠅でも追い払うように手を振った。 「あー、いいよ午後からで」  一瞬、ホッとしたのもつかの間。 「慌てて直したらまた間違えるだろ。  それに何、そのたまご。変な恰好してふざけてるんだろ。まったく最近の若いやつはこれだから」 「すみません……」  うう。  たまごは私のせいじゃないんだけどな。  部長、私には特に当たりがキツい気がする。  その時、頭上で「ぴしり」と、かすかな音がした。
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