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「あ」と大岩先輩がつぶやく。
「三羽さん、たまごにヒビが入った」
「ええっ?」
見上げると、確かに底から上に向けて、ジグザグの線が1本入っている。
「……このまま割れちゃったりしないですよね?」
顔が引きつっているのが自分でもわかる。
「……」
「なんとか言ってくださいよぅ」
大岩先輩がちら、と部長の方を見た。
「もしかして、部長の声に反応したとか?」
「なっ」
部長は顔をぶるぶると震わせた。
「そんな悪ふざけ、俺は知らん!
いいか、後で修正して再提出だぞ!」
バタン! とドアが閉まる。
ドスドスと歩く音が遠ざかる。
「やなヤツ。怒鳴らなくてもいいのに」と小石主任がぼそり。
大岩先輩が片手で「ごめん」のポーズをする。
「ごめんな、商談の結果が良ければ応戦したんだけど今日は厳しくて……」
「お気持ちだけで十分ですよ」
私はのびてしまった麺をすすり、スマホを触り始める。
「たまご割れた人って、まだ見つかってないんですよね?」
「そうみたいだな。さっきインタビューされてた奴は、『起きたらたまごが浮いていた。これは宇宙人の策略だ!』とか騒いでた」
「宇宙人ねぇ……」
「だだ大丈夫ですかね?
これ割れたら私、死んだりしませんよね?」
「どうだろうなぁ」
「それだけ大きなたまごなら、割れた時に中身がたらーりと全身に……」
幽霊のようなポーズをとる大岩先輩。私は「もう!」と殴るフリをする。
そこから「卵料理なら何が好きか」談義が始まった。
いまいち危機感がないけれど、本当に割れたらどうなるんだろ。
私は黄身と白身にまみれた自分を想像した。
そうなったら、もう私が私じゃなくなる気がした。
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