ヒビ

3/3
前へ
/14ページ
次へ
「あ」と大岩先輩がつぶやく。 「三羽さん、たまごにヒビが入った」 「ええっ?」  見上げると、確かに底から上に向けて、ジグザグの線が1本入っている。 「……このまま割れちゃったりしないですよね?」  顔が引きつっているのが自分でもわかる。 「……」 「なんとか言ってくださいよぅ」  大岩先輩がちら、と部長の方を見た。 「もしかして、部長の声に反応したとか?」 「なっ」  部長は顔をぶるぶると震わせた。 「そんな悪ふざけ、俺は知らん!  いいか、後で修正して再提出だぞ!」  バタン! とドアが閉まる。  ドスドスと歩く音が遠ざかる。   「やなヤツ。怒鳴らなくてもいいのに」と小石主任がぼそり。  大岩先輩が片手で「ごめん」のポーズをする。 「ごめんな、商談の結果が良ければ応戦したんだけど今日は厳しくて……」 「お気持ちだけで十分ですよ」  私はのびてしまった麺をすすり、スマホを触り始める。 「たまご割れた人って、まだ見つかってないんですよね?」 「そうみたいだな。さっきインタビューされてた奴は、『起きたらたまごが浮いていた。これは宇宙人の策略だ!』とか騒いでた」 「宇宙人ねぇ……」 「だだ大丈夫ですかね?   これ割れたら私、死んだりしませんよね?」 「どうだろうなぁ」 「それだけ大きなたまごなら、割れた時に中身がたらーりと全身に……」  幽霊のようなポーズをとる大岩先輩。私は「もう!」と殴るフリをする。  そこから「卵料理なら何が好きか」談義が始まった。  いまいち危機感がないけれど、本当に割れたらどうなるんだろ。  私は黄身と白身にまみれた自分を想像した。  そうなったら、もう私が私じゃなくなる気がした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加