たまごびと

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たまごびと

 一日、二日経ち。 「起きたらたまごが頭上に浮いていた」という人は急激に増え始めた。 「たまごびと」とか「Eggman(エッグマン)」と呼び名もついた。病院に行っても原因不明。体調面で全く変化はない。亡くなる人も、持病や寿命など、たまごとは関係ない自然死ばかり。  テレビもネットもたまごの話題で持ち切りで、「どうしてヒビが増えるのか」「割れたらどうなるのか」「たまごの色で占う あなたの未来」「たまごが浮かぶ人と浮かばない人の違いは?」「最初のたまごびとたちに聞いてみた! 『私の頭上にたまごが浮かぶようになった理由』」などなど、「たまご」の三文字を見ない日はない。  たまごが割れた、という報告はどこからも聞こえてこない。  私はと言えば、日に日にヒビが増えていくたまごをなすすべもなく見守る日々。もう割れてもおかしくないくらい、8割くらいヒビが入っている。 「いっそ、ひと思いに割っちゃいたいけど、触れないしねぇ」とつぶやく小石主任の頭上には薄いピンクのたまご。歩調に合わせて上下している。  そう、私の周りの人にもたまごが浮かび始めたのだ。    注目されなくなったのはいいけど、どことなく憂鬱なのは変わりはない。  たまごが現れて四日目の今日。  念のために検査するよう通達があり、私と小石主任は特別休暇扱いで検査会場に行ってきて、今出社するところだ。  検査とは言っても、健康診断に毛が生えた程度のことしかされていない。どこをどう調べればいいのか国もわかってないらしい。  会社に向かう道を歩きながら、私たちは話す。 「いつまで続くのかな、この騒動」 「頭が気になって仕事に身が入りません……」 「とは思うけど、がんばれ」 「うう……」 「しかし、心当たりはないのよね……まあ、私にもないんだけど」 「小石主任にも体調に変わりはないですよね」 「うん……」  社屋(しゃおく)まで、あと十数メートル。  私は立ち止まった。
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