考えていたこと

1/3
前へ
/14ページ
次へ

考えていたこと

「あの、私ずっと考えてたんですけど……」 「うん?」  小石主任も足を止めて、私を見る。  心配そうな瞳。可愛がってくれて、ミスもフォローしてくれる頼もしい上司。  そんな人にこれ以上、気を遣わせるのは悪い気がして、私は言いかけた言葉を飲み込んだ。 「……やっぱ、やめときます」 「ええ?」 「ほんと大したことないんで。忘れてください」  そのまま流して会社に入ろうとしたけど。 「ちょっと三羽ちゃん」  後ろから手をつかまれる。   「そこまで言っておいて言わないのはナシよ」 「でも……」 「いつも言ってるでしょ、ささいなことでも早く報告しなさいって。  判断するのはこっちの役目なんだから」  小石主任は私の手をぐい、と引き、物陰に連れて行く。  壁に追い詰められる私。ばち、と真正面から合う視線。 「私ってそんなに頼りない先輩かしら」 「あ……」  「ぴしり」と音がして、小岩主任のたまごにヒビが入った。  にっこり微笑んでいるのに、目が笑っていない。  頭上に浮かぶたまごの色は可愛らしいのに、それすら迫力を増しているようで。 「吐け」「はい」  私は折れた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加