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「私の頭にたまごができたのは昨日の朝からだけど、前日、旦那とすごい喧嘩したのよね」
「そうなんですかぁ!?」
私はすっとんきょうな声をあげた。
以前旦那さんとの写真を見せてもらった。テレビに出てきそうな仲睦まじい夫婦のツーショット。私がひーひー言いながら家と職場の往復をしているのに比べて、小石主任は完璧だと思っていた。
それなのに。
主任は形の良い眉をひそめて、少し寂しそうに笑う。
「うまくいっているように思ってたでしょ?
他人が一緒に住んでるんだから喧嘩もするわよ。仕事と家庭の両立、車や食事に対する価値観、それぞれの両親との付き合い……。
独身の三羽ちゃんはこれからだから、結婚に幻滅させたくなくて、会社ではそんな話してなかったけどね」
一息ついて主任は「だから、三羽ちゃんの仮説、当たってるかもよ」とぽつりつぶやいた。
「当たってます……かね?」
「だって、頭にたまごが浮かんでるってだけでもうこれはSFかファンタジーの世界よ。例の『宇宙人のしわざだ』って言っていた人のこと笑えないわ。
このたまごの中には、いっぱいいっぱいになった私達の感情が詰まっているのかもしれない」
二人して頭の上のたまごを見る。
不気味だと思ってたけど、さらに不気味度が増してきた。
「……割れたら何が生まれるんでしょう?」
「あんまり良い想像は浮かばないわね」
それきり二人とも黙った。木々が揺れる音がする。たまごはもういつ割れてもおかしくないほどヒビが入りまくっている。
いっそどこかにやってしまいたいけど、どうすることもできない。
どちらからともなく、私達は立ち上がり会社へ向かった。
営業部の部屋の手前、休憩所を通りかかる。そこには自販機とベンチのほかに、病院の待合室よろしくテレビが置いてある。
今しがたニュースが始まったところだった。
「次のニュースです。ある男性のたまごが割れた後、消えたという情報が入ってきました。
そして、同時刻、男性の妻がドロドロしたスライム状のものに覆われ意識を失い、病院に運ばれました」
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