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僕は桜が好きだ。何故なら、母はご飯のときによく言っていた。好き嫌いがあってはいけません。だから僕は漬物を食べると戻してしまうが、漬物が嫌いな訳ではない。漬物が嫌いではないので、食卓に並んだ漬物は残してはならない。キレイに食べ切ると、あなたは好き嫌いがないいい子だと母は褒めてくれる。トイレでゲーゲー吐きながら、今日も褒めて貰えたと安堵した。母は忙しいので、僕は保育園に行かなくてはならないし、ご飯の支度をする母の邪魔をしてはいけないし、ご飯を食べたらお風呂に入って、寝なくてはならない。母は優しい人なので、かまって欲しいとわがままを言う僕に絵本を読んでくれる。絵本は子供の成長にとても良いらしい。でも、母は絵本を読み終わるとすぐに生徒たちの答案の丸付けをしようとするので、僕はもう一回、もう一回、とお願いする。母は変な顔をしている。嬉しいのに怒っているふりをしようとして失敗した顔だ。僕はそれ以上お願い出来ないから、寝ないで母が丸付けを終えて寝室に戻るのを待っている。でも、母は戻ってきてもすぐに寝てしまう。朝になれば急いで朝ご飯を食べて、保育園に行かなくてはならない。母は今日は早く迎えに来るからおりこうに待っていてね、と言う。だから僕は保育園の門の近くにある桜の樹の下で待っている。他の子たちが砂場やブランコで遊んでいるのを見ている。僕は待っているのが好きだ。母は待っていれば、必ず迎えに来てくれる。ピンク色の桜がわからないくらい暗くなって、母は迎えに来た。母は桜の花はとてもきれいだから好きだと言った。だから僕は桜が好き。
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