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1.始まりから間違いでした
「大丈夫。できるよ、実乃莉!」
へこたれそうな自分を奮い立たせるように実乃莉は呟いた。
今いるのは、都内指折りのラグジュアリーホテルの最上階。そこにある、東京の街並みが一望できると評判のレストランに向かっていたのだが、二十二才にして初めて履いたピンヒールは分厚い絨毯に足を取られ、何度も転びそうになっていた。
(この服装……。入店拒否されないよね?)
今は昼間で、そこまでドレスコードに厳しくないと思いたい。だが、今の自分の姿を確認すると少し不安になってしまう。
普段ならこんなことを考えることもない。実乃莉の家は代々議員を輩出するような家柄で、祖父が国家議員、父は都議会議員だ。幼いころからどこに出ても恥ずかしくないようにと教養を身につけ、清楚な立ち振る舞いを求められ、今までそうしてきた。
けれど今日は、それに反するように真っ赤なエナメルの靴を履き、母が見れば『なんてはしたない』と卒倒しそうな服装をしている。
今日買ったばかりの透かし編みの黒いニットは背中がぱっくり開いているし、その下はデニムのショートパンツ姿で初夏らしく素足を曝け出していた。
こんな服を着るのも生まれて初めてだった。どんな服装なら相手を幻滅させられるだろうか。そんなことを考えながら入った若い女の子向けの店で、マネキンが着ていたものをそのまま買ったのだった。
服を買い、靴を買い、最後の仕上げに実乃莉は美容院に飛び込んだ。
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