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小さい頃の記憶は、ほとんど思い出せないけど弓道に出会った時のことは今でも鮮明に思い出せる。 幼稚園の年長の時に家族で公園に遊びに行った時のことだ。 運動公園という名前通り野球場、サッカーグランド、プール、テニスコートがある広い敷地の公園だ。 新緑の木々が、ずっと両側に並ぶランニングコースを私は走っていく。 爽やか風が私を包み、若葉の香りがとてもいい匂いだ。 「みく、ちょっと待ってくれ」 と私を追いかけてくる父が、息切れしながら走ってくる。 振り向いた私は、父の疲れている姿を見て足を止めた。 「はぁー、はぁー」 と肩で呼吸しながら近づいてきた父は、 「みく、少し休もうよ」 と大きく息を吸い込んで、呼吸を整えていく。 「あそこに座ろう」 と私が、先に見えたベンチを指差し、父と並んで歩いていく。 低い木々の向こうに細長い広場が見え、戸が開いた建物の中に白い上着に黒い大きなズボンを履いた人達が、糸のついた長い棒を片手に持ち、羽根のついた細長い棒を持って一列に並んでいる。 「おっ、弓道だね」 とじっと見ていた私の後ろから父が言ったので、 「弓道?」 と私が聞くと、 「そうだよ。見ててごらん」 と父が答え、一列に並んでいる人達をじっと見ていた。 長い棒についている糸に羽根のついた細長い棒をかけ、その手で糸をぐっーと引っ張ってから糸から手を離す。 「しゅー」 という音とともに細長い棒は遠くにある丸い板にぶつかり、 「ざっ」 という音を立てて刺さった。 「わー」 と私が大きな声で言うと、 「みく、静かに」 と父が、口に人差し指をあてて言った。
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