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「……あの人、男の人?」
貴雄は無意識で呟く、それも指を差して。差された相手は貴雄の登場に一瞬眉をしかめるも、柔らかな声音で伝えてきた。
「こんな形ですまない、初めまして。僕は柊だよ」
支配欲が強い雄達は貴子を力で金で装飾品で縛ろうとするが、貴子はのらりくらり振る舞い、誰のものにもならない。再婚をしない事、それが貴雄にとって母の誇れる部分であった。
ところが柊と名乗る男を前にし、柊がこれまでの雄達とは違う。母の唯一も奪われるだろう。貴雄は直感した。
「いつまでもこんなところ、子供に見せるべきじゃないな」
脱ぎ捨てた服を身に付ける柊。着込む事で金色の輝きは収められ、神経質な線が現れる。貴雄が女性と見間違えたのは、柊には特有の男臭さがないからだ。
きっちり上まで留められていくシャツのボタンを貴雄は見詰め、その隣で貴子がニヤニヤする。柊の位置だと二人の様子は表裏でありながら似ているが、それを貴雄は知らない。
「ふーん、柊さんねぇ。あたしもそう呼ばせて貰おうかしらねーー先生」
「貴子、こんな悪趣味はよしてくれないか」
「その割には優しく自己紹介してたじゃない? やっぱり職業柄?」
貴子はカウンターに置くライターを寄せ、悪びれた様子もなく煙を吐き出し店内を見回す。
貴子にはこれといった趣向はなく、店の設備を始め、テイストすら金を払ってくれる相手に合わせた。言ってしまえば貴子は店という箱にしか興味はないのだ。他はどうでもいい。グラスが満たされるなら泥水でも構わない。
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