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ーー2005・6
貴子と柊の関係は続いていた。貴子は春から自宅とは別のアパートを借り、そこに貴雄を住まわせ、高校生となった貴雄は実質一人暮らしをしている。
有数の進学校へ通う貴雄は優等生になりすぎない知恵と、詮索されにくい社交性を身に付け、幼少期の影響を決して周囲に気取らせない。今や貴雄を苛める生徒は全滅した。
その日の放課後、立ち寄ったスーパーから出ると雨が降っており、これは予報通り。貴雄は不用意に濡れる周囲へほくそ笑むと折り畳み傘を広げ、食材がきっしり詰まった袋を抱える。
今夜のメニューはカレー。材料代を出して貰うのだからリクエストには応じなければならない。
これを機にスパイス各種を揃え、小瓶が並ぶキッチンを想像してみた。
1Kの狭い間取りでも、貴雄はアパートへ越せ本当に良かったと考える。貴雄は良心が麻痺するあの甘い香りを擦れ違う女性にまで感じるようになってしまったのだ。特に雨はいけない、臭いが濃くなる。もしも、あのまま貴子の元に取り残されていたらーー。
悲惨な末路を想像をしかけたところ、一台の車が横付けされた。
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