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ゴールデンウィークの終わりに姉と子供たちは郡山へと戻って行った。優貴は秋頃に有給を使い帰省した。灯と栞は元気そうだったが、街からは子供たちの姿が消えていた。被爆しないように子供を外に出さないためだ。
市内は八千代市より、地震の爪痕が残る建物や場所は多い。しかし、津波の被害があった浜通りに比べると被害は少ないように見えた。しかし、故郷は今までとは違う街になってしまっていた。
東日本大震災から2年後の9月、2020年に東京オリンピックの開催が決まった。優貴はオリンピックに浮かれる人々を見るのが嫌で、2015年に仕事の契約を更新せずに実家に戻った。
戻るとき八千代市では桜が満開になっていた。だが、それを見ても優貴の心は弾むどころか沈んでしまう。灯から虐めの告白を聞いてから、彼は桜が嫌いになっていた。実家に戻れば姪たちとも会う機会は増える。それでも何かモヤモヤするのだ。
その原因に優貴は気付いていた。不謹慎だが、彼は姪たちと暮らす生活が気に入っていたのだ。もちろん桜に罪はないのだが、毎年見る度に楽しかった日々を奪われたことを思い出す。実家に帰っても姪たちがいるのは姉夫婦の家で、優貴が住むのは父しかいない実家だ。頑固な父とケンカをする日々が続いている。
さらに春が来るのが嫌になる問題が起きた。第一原発に溜まっている処理水が2023年の春から夏にかけて放出されることが決まったのだ。政府は漁業関係者の同意が得られなければ放出しないと言っている。しかし、それなら時期が決定しているのはおかしいし、自公政権が何かをちゃんと説明し、国民を納得させたことは一度も無い。結局は言葉遊びで強行するのだ。
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