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帰郷
翌日、優貴は仕事から急いで帰った。
「ただいま~」
玄関を開けると、
「おかえり~」
と、姉と子供たちの声が聞こえた。上京して10年近く経つが、震災が起こるまで自宅で家族が待っていることなどなかった。
はやる気持ちを抑えて姉が用意してくれた夕食を食べ終えた。
「姉貴、それでどうすることになったんだ?」
せかす弟の言葉に晴花はフッと笑い、隣にいる娘たちに視線を向けた。
「おじちゃん、わたしたち、いえにかえることにした」
灯はしっかりと優貴の眼を見て言った。
「えッ、いいの?」
思わず晴花に確認する。福島は危険だから千葉に避難してきたのだ。
「灯と栞が本当に望んでいるからね」
姉も覚悟を決めたようだ。
「でも、健康面が……」
灯のこともあるので『放射能』という単語は使わない。
「それは正直心配ね。でも、ここにいたら灯の精神的健康面が最悪になるわ」
「そうか……」
確かに一理ある。それに灯だけ帰して、晴花と栞がここに残るわけにも行かないだろう。秀晃は仕事で忙しいし、祖父に世話を任せるのも不安がある。
「って、言ってもすぐに帰るわけじゃない。郡山に戻ってもまだ学校は始まっていないし、手続きもある。だから、しばらくはここでのんびりするわ」
「わかった」
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