2.緑川

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2.緑川

「あーあ。安請け合いしちゃって。どうするんですか、織田さん」 「仕事だもの。やるしかないでしょ」  この緑川は、先月中途入社で入ってきた社員だ。転職前は国家公務員という異例の肩書を持つ。なんでそんなキャリアを棒に振ったのかと社内中から詮索されているが、こいつの上を上とも思わない態度の悪さが問題になってクビになったに違いない、と私はひそかに睨んでいる。 「一人で場所取りして、おにぎり作って? お酒とおつまみ手配して運んでって、絶対無理でしょ」 「そう思うなら手伝ってよ。これは営業部の花見なんだから。あんたも営業部の一員でしょ」 「僕、そういうの興味ないんで。っていうか花見も出ないんで」 「はあ?! あのねえ、社内行事は全員参加が基本なの! そう決まってるの!」 「誰が決めたんですか」  スパッと切り返され、私は黙り込む。誰が言い出したんだっけ。思いだせない。 「ほーら。そんなもんですよ。慣習なんて。なんとなく前から続けているから今も続いている。ばかばかしいと思いません?」 「うるさいな! ばかばかしくてもなんでも、上からやれって言われたらやるしかないの! 会社はそういうものなの!」  ぴしゃりと言うと、緑川はわずかに鼻白んだような顔をし、自席へと戻っていく。  そのまま私との会話なんてなかったみたいに仕事に戻る緑川の背中をちらりと窺い、私は細く息を吐いた。  心配してくれたんだろうに、嫌な言い方をしてしまった。  緑川は口は悪いが、いつも正しい。  経歴のせいなのかなんなのか、ちょっとずれてはいるけれど、発言に迷いがない。  そのせいで上司からは煙たがられているところもあるけれど、彼は一切気にしない。  そういうところは羨ましいと思う。  私には真似できない。  最後にもう一つため息をついてから私は時計に目をやり、もうすぐ始まる部署ミーティングの準備のために立ち上がった。
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