強欲的告白

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強欲的告白

「はじめまして、こんにちは。……いえ、こんばんはの方が相応しいかしら、ここはあんまり暗いもの。それに悪趣味だわ。ねえ、貴方もそう思いませんこと? 閻魔様」  三途の川を渡ってやってきたその女は、紛れもなく死者でありながら、あまりにも平然と、閻魔の前に立っている。  成人男性の三倍はあろう閻魔の身長からギラりと光る目が見つめれば、誰であろうと萎縮するには十分な迫力があるはずだが、女は恐れるどころか笑みまで浮かべている。  嘘を見抜くことに長ける閻魔には、その態度が偽りでないことが明らかにわかった。  女は続ける。 「わかりきっていますわ、私を地獄に堕とすのでしょう。私とて、自分が地獄行きに十分足る理由を持ち合わせていることくらい、重々承知していますから。……でも、その前に」  女は初めて、一瞬泣きそうな顔を見せた。 「私に……せめてもの救いをくださらないかしら。貴方ならばご存知でしょう、救いのない人生でしたから。……そうは思いませんか」  返答が返ってこないのを察して女はまた続ける。 「人には、平等に幸福になる権利があると、そうは思いませんか。私はこの一生のうちで幸福だった瞬間など一度もなかったわ。それならば——最後くらい、誰も聞いてくれなかった私の言い分を——貴方くらい、聞いてくださってもいいのではないかしら。それで少しだけ、私は楽になれるわ」  閻魔が頷くまで、女は話し続ける。 「閻魔帳とか、浄玻璃鏡なんかじゃ、私の生涯を真に知ることはできないでしょ。いくらお仕事だからって、こんなにかわいそうな私の人生を内面も見ずに処理するなんて、理不尽だわ。ねえ? えっと……誰だか知らないけれど、お着きの方も、そう思うでしょ?」  お着きの鬼は黙って女を睨みつける。 「はあ、嫌だわ堅苦しくって。ねえ聞いて閻魔様。貴方からすれば私は、たくさんの人から何もかもを奪ってしまう、最低で傲慢な女に見えるかもしれないし、実際そうだわ。でも、心の奥に居たのはいつも、怯え震える小さな女の子だったのよ。——知らなかったでしょう? ちょっとくらい聞いてみてよ。……あら本当? 意外と融通が利くのね、ありがとう。では話させてもらうわ」  女はにこりと笑って話し始めた。
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