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「ねえお母さま。お母さまの初恋はいつだったの?」
お父さまには言わないからさ、と幼い娘はいたずらっ子のように母親を見た。ベッドの中で寝る前の読み聞かせをしたあとのことだった。ちょうど恋愛に関する物語だったから小さな彼女は物語にでてきたその未知なる言葉が気になったのだろう。
娘の素直な質問に母親は薄く笑った。少し寂しそうな笑顔だった。
「なあに、お前も初恋をしているの?」
「いいから教えてよぉ」
少し顔を赤らめながら娘は母親をせかす。どうやら図星らしい。
「私の初恋の人はこの首飾りの持ち主よ」
その優しい声音に応じるように首飾りが揺れる。母親が肌身離さず持っている何かの動物の羽根をぶらさげたものだ。金色に輝くその飾りは美しくてとても眩しい。
「でも残念、初恋は実らないというのがこの世界の理なの」
「ことわりって何?」
「……うーん、運命ってところかな」
「そんなぁ、困るよ」
娘は泣き声に似た妙な声をだして母親にすがる。やはり彼女は今、初恋の真最中のようだ。
「でもそうね、恋なんて人それぞれだから結末なんて誰もわからない。ただ私の初恋が実らなかっただけ」
だから元気をおだし、と母親は娘の背中を優しくなでる。
「……お母さまはどうして初恋がダメになっちゃったの?」
その問いかけには答えず彼女はまた寂しそうに微笑んだ。
「……少し昔話をしましょう。今度は初恋の物語よ」
母親はそう言ってとある物語を話し始めた。
その主従には愛がなかった――と。
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