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「失恋の経験はありますか?っていうインタビューに、こう答えてんの」
「……失恋?」
彼女に限ってそんな経験はないだろう、なんて思いつつ、僕は耳を澄ませて立川がそれを読むのを聞いた。
「あります。あれはたしか、中学校の卒業式ちょっと前かな。ずっと好きだった幼馴染の男の子がいて。夜、勇気を出して”夜桜見に行こう”ってメールしたんです。そこで、初めて女優になりたいっていう夢も話して、告白しようとしたんですけど……卒業式に第二ボタンがほしい。って、それ言い終わる前に、なぜか逃げられちゃって。それ以来、一度も目を合わすことすらなくなって」
鼓動が変な速さで騒ぎ立てる。
息が止まりそうになった。
「多分、ずっと友達だと思ってた私が急に告白なんてしようとしたから、びっくりして逃げ出しちゃったんじゃないかな。私のことなんて恋愛対象外だっただろうし、それからも気まずかったんだと思います。もう過去の話ですけどね。ちゃんと振られたわけじゃないから、変にモヤモヤして、結構引きずりました。まぁ今はケンタくんがいるし、全然いいんですけどっ!」
なんだそれ、なんだそれ。
「もう会うことはないかもしれないけど、今のどこかで元気にしてくれてたらいいなって思います。……だってさ。こんなに可愛い子が告白してきたのに逃げるって、どんな良い男なんだよな!?……って、お前顔色悪いけど、大丈夫か!?」
「ごめん、水……」
「おう、入れる入れる」
立川が入れてくれた水を一気飲みした後も、まだ僕の喉は乾いていた。
うそだろ。そんなことって、あるのか?
桜良は僕のことを好きで、あの日は告白しようとしていた?
じゃあ、あの日彼女が言ってた「好きな人がいる」の「好きな人」って……
僕のことだったのか?
とんでもない過ちをしてしまった。だが、もう何もかもが遅い。
この番組に出たことで桜良の知名度は確実に上がったし、きっとこれからドラマのオファーなんかもくるだろう。彼氏もできたみたいだし。
僕の現実は、何も変わらないけど。
あの日、もし、彼女の話をちゃんと最後まで聞いていたら……
僕は今頃、桜をちゃんと好きだったのかもしれない。
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