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「今から、誰にも言ったことのないこと、真に言うね。……真だから、言うね」
変に改まったその口調がおかしくて、俺は思わず笑う。
「なんだよ、早く言ってよ」
彼女は軽く咳払いをしてから、前を見たまま言った。
「私、女優になりたいんだ」
「……女優?」
「……うん。小さい頃から、憧れてて。高校生になったら、オーディションとか受けてみる、つもり」
小さい声ながらも、やけにはきはきとしたその言葉はよく聞き取ることができた。
桜を照らしたライトアップのせいか、彼女の頬がなんとなく赤らんでいるように見えた。
「マジか。そんな夢あったんだ、知らなかった」
「笑わないでね」
「笑わないよ!応援する」
「本当?ありがとう!」
やっと僕の顔をちゃんと見た彼女は、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「有名になったら、サインちょうだいよ」
「当たり前!」
誰にも話したことのなかった夢を、僕にだけ教えてくれた。
それだけで僕は、胸が一杯になった。
……それなのに。
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