2.失恋の記憶

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「あと、もう一つ、真に言っておきたいことがあるの」  また真面目な顔に戻って、彼女は言った。  さっきまでの幸せな気持ちとは反対に、僕はなんだか嫌な予感がした。  そしてその予感は的中した。 「好きな人がいるの」  風が吹いた。  僕の方を見もしないで、小さな声で俯きがちに言った彼女の横顔に、桜の花びらが舞った。  花びらは僕の方にも舞ってきて、目の前でひらりと落ちた。たしかにそこに落ちた花びらは、僕の胸をえぐった。  笑顔をつくろうと意識すればするほど、顔が強張る。 「そうなんだ!知らなかった」     精一杯明るく言ってみたけど、多分震えていた。声も、全身も。  こんな滑稽な僕を、彼女が好きになるはずなんてない。    ほとんど無意識だった。  ゆっくりと丁寧に話す桜良が次の言葉を言い終わる前に、僕はその場から走って逃げ出していた。 「でね、あのね、私、明日、第二ボタンーー」  そこから先は、再び桜を散らした風の音のせいで、もう何も聞こえなかった。  走りながら滲む視界の中に、夜の桜がこれでもかというくらい綺麗に咲いていた。  桜に罪はないことはわかっている。だけど、とても憎いと思った。  
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